2011年12月15日

殺人犯への怒りより、まず恐怖を感じて慄く一冊 『消された一家』

平成14年、北九州で連続監禁殺人事件があった。
犯人は松永太という男。
あまり知られていない気がするが、日本犯罪史に残る残虐な人間だ。

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件

本書は、松永と被害者たちとの状況を真に迫って描いたルポタージュ。松永太への怒りよりもまず、その虐待方法や淡々とした死体処理の仕方に恐怖を感じる。

被害者への凄まじい虐待の一部を紹介。最終的には衰弱死した被害者がまだ生きていたころのエピソードで、それを見ていた娘が裁判で供述している。
トイレに行けないので漏らしてしまった下痢便を食べるように命じられ、汚れたパンツごと口に詰めてチュウチュウと吸い、尻の便を拭き取ったトイレットペーパーも水といっしょに飲み込み、オエオエと涙を流している父親の姿……。
結局、この男性は亡くなるのだが、その死体処理を男性の実の娘にやらせている。この松永というやつは、自分の手は汚さずに他人に責任を取らせるという卑劣な男なのだ。
「まず血抜きをしよう」
首と手首の血管を切り裂き、血液が流れる方向にシャワーを勢い良く流しつづけるという血抜きの方法を教えると、松永は「あんたたちが切り込みを入れろ」と命じた。
(中略)
まず、切断部分を少しずつ家庭用鍋に入れて煮込むよう指示した。さらに長時間煮込んで柔らかくなった肉片や内臓をミキサーにかけて液状化し、幾つものペットボトルに詰め、それらを公園の公衆便所に流させた。粉々にした骨や歯は、味噌と一緒に団子状に固め、クッキー缶十数缶に分けて詰め込んだ。そして、夜更けにフェリー船上から味噌団子を散布した。
(中略)
死体の解体と遺棄については、時効が成立しているからだろうか、自らの関与を堂々と認めた。
「私は解体の企画・構成に携わり、プロデュースしました。設計士がビルを建てるのと同じです」
「私の解体方法はオリジナルです。魚料理の本を読んで応用し、つくだ煮を作る要領でやりました」
などと言いたい放題で笑いを誘った。

主也さん(かずや・38歳)と、その娘である彩ちゃん(あや・10歳)とで、理恵子さん(33歳)を殺害する場面。理恵子さんは、主也さんの妻であり、彩ちゃんの母である。
うつむいて黙り込んでいる彩に向かって主也は、毅然とした口調で、
「お父さんがお母さんの首を絞めるから、お前は足を押さえて、最後のお別れをしなさい」
と語りかけた。彩は顔をあげて父親を見つめ、小さく「うん」と頷いた。
(中略)
主也が首にコードをかけようとした瞬間、理恵子の目がぱっと開き、夫を凝視した。
「かずちゃん、私、死ぬと?」
そう呟く妻に、「理恵子、すまんな」と主也は答え、コードを首にかけて交差させ、力を込めて引っ張った。彩は膝に手を乗せて体重をかけるように足を押さえ込んだ。
(中略)
主也は洗面所に立ち尽くしてすすり泣き、「とうとう自分の嫁さんまで殺してしまった」と呟いた。
父親の背後に付いて出てきた彩は、対照的に涙を流さず、まるで感情を失ったかのように無表情だった。
まだ10歳の彩ちゃんは、その前に祖父である譽(たかしげ)さん、それから祖母の静美さんの遺体解体もやらされている。さらに、上記引用のように母の理恵子さん殺害・遺体解体もさせられた後、今度はその後に死亡した父の主也さんの遺体解体をさせられ、ついには自分の弟である優貴(5歳)を殺して解体することもやらされて、最後は自らも殺されてしまう。

最終的に、松永太によって殺された人たちは61歳から5歳までの7人。この男の行為は、残虐や卑劣の一言では言い表せない。自らは、一切、殺害に直接的な関与をしていないのだ。殺害の指示さえしていない。徹底的な拷問で一家を痛めつけ、衰弱したものの処理を彼らに迫る。「殺す」という以外の答えを出そうものなら、また徹底的な拷問。一家の口から「殺します」と言わせておいて、「あなたたちがそう決めたのなら」と無関係を装う。

たった一人でここまでのマインドコントロールを成し遂げた人物は、全世界の歴史的にみて、ほかにいないのではないだろうか。家族を殺し、家族に殺された人たちの、苦しみ、怒りと恐怖、悔しさや悲しさ。

筆舌に尽くしがたい状況を、丁寧に描き上げた筆者に敬服。

そして、松永太のような人間のためには、死刑を存続しておくべきだと強く思った。

同じ筆者が書いたものに下記があり、これらは研修医時代に読んだ。
DVというものを知るための勉強になる本だった。

DV(ドメスティック・バイオレンス)--殴らずにはいられない男たち
家庭という病巣

<関連>
人を殺すとはどういうことか
死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う
元刑務官が明かす死刑のすべて
彼女は、なぜ人を殺したのか
弟を殺した彼と、僕。
死刑について考えるキッカケ、にはならないが、わりと面白い 『13階段』


平成23年12月15日、共犯者として裁かれている緒方純子被告の無期刑が確定したらしい。この事件を見出しでしか知らない人は、「なんで死刑にしないんだ!」と憤るかもしれない。ぜひ、ここで紹介した本を読んでみて欲しい。たしかに、緒方被告にも愚かな部分はたくさんある。しかし、完全なる加害者として一方的に責める気にはなれない。
<北九州監禁7人死亡>壮絶な虐待を酌み 異例の死刑回避
毎日新聞 12月15日(木)
北九州市の連続監禁殺人事件に対する最高裁の判断は、松永、緒方両被告の「支配・被支配関係」に着目し、松永被告を死刑、緒方被告を無期懲役に減刑するという考えを維持した。最高裁が83年に示した死刑適用基準(永山基準)に照らしても、7人もの犠牲者を生んだ被告の死刑回避は極めて異例だが、共犯者による壮絶な虐待という特殊な背景事情を最大限酌んだ結果といえる。

しかし、決定からは、第1小法廷で激論が展開された経緯がうかがえる。弁護士出身の宮川光治裁判長は補足意見で「本件は不可解・不条理な緒方被告の心と行動の闇を見つめて解明し、量刑を検討しなければならない」として、「精神医学の見地からの判断を踏まえた2審を尊重したい」と述べた。これに対し、検察官出身の横田尤孝裁判官は「多数人殺害事件の刑を無期懲役にとどめることは、罪刑の均衡を失する」と強く反論した。

連続4人射殺事件を起こした永山則夫元死刑囚への第1次上告審判決で示された「永山基準」は死刑を選択する際、総合考慮すべき9項目を示し、そのうち殺害方法の残虐性と被害者数を特に重視するとした。同基準はその後の死刑判断に広く浸透したが、12人が犠牲になった地下鉄サリン事件(95年)の実行役の1人が「供述が全容解明に貢献した」として無期懲役になったケースもある。今回、5人の裁判官で意見が割れたように、事件の個別事情や被告の内面が減刑の検討材料になるのも確かだ。

「被害者数と量刑」を巡る論議には一定の相場はあっても明確な着地点はない。「指示に従わないことが難しい心理状態」で加担した場合は極刑回避もあり得るとした今回の判断は、市民が参加する裁判員制度下の死刑選択論議にも影響を与えるだろう。【石川淳一】

11 件のコメント:

  1. こんにちは。

    角田美代子事件や近々の堺市女性不審死をテレビで観て、そういえば女子高生コンクリとならんで日本史上最悪の事件と挙げられた北九州殺人事件ってなんだったんだろうと、興味をもってネットしてたら貴殿のブログに当たりました。
    健常者の感覚では理解不能な主犯の心理。
    しかも話術が巧みで裁判中にも人がぷっと吹き出す場面があったとか。

    目には目をーの古代スパルタの法も鬼畜の所業には一番いいと推うこのごろです。
    楽な首つりで死刑にしていいのかな。
    自分が命令した数々の所業をすべて味あわせるべき---そこで初めて主犯の気持ちを聞いてみるのも反省思惟の方法かと・・

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    1. >鈴木けいこさん
      女子高生コンクリ事件も衝撃的でしたね。ここでこういうことを話題にすることさえ怯んでしまいそうになるほどの……。
      これだけの残虐事件の裁判で、法廷内に笑いを誘うなど、そうそうできるもんじゃないと思います。よほど能力が高かったのでしょうが、人格がついていかなかったんでしょうね。

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  2. 怖いほんと怖いです  この報道は知っていましたが、その内容に吐き気ガして来ました。自分の中にもこんな一面があるのかと思うとゾッとします。松永被告の子供はどうしているのでしょうか、やはりこういった遺伝子は受け継がれるのでしょうか

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    1. >匿名2013年10月3日 1:53さん
      子どもに罪はありません、と一般的かつ良識的なことを言えたら良いのでしょうけれど、こういう父親を持ってしまった子が、ごく普通に育つとも思えず……。

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  3. 私も本読みました。怒りや悲しみやおぞましさで自分の人生が辛くなったほどの衝撃でした。鬼畜松永はもう死刑執行されたんでしょうか?ご存知でしたら教えてください。こんなクズがのうのうと生きていると思うと胸糞が悪いです。もしまだ執行されていないのなら、執行されたかどうかを知るにはどうすればわかりますかね?ニュースで報道されるのかなあ?

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    1. >匿名2013年11月10日 20:24さん
      このクズはまだ生きています。
      http://www.geocities.jp/hyouhakudanna/cplist.html
      このリストの117番です。
      最高裁確定から執行までだいたい8年くらいということですので、2019年前後が執行ではないかと想像しています。

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  4. 北九州の人間です。私はあの人達が住んでいる所を毎日通っていました。
    まさか・・同じ所に住んでいたなんて酷い殺人犯がいたなんて恐怖を通り過ぎ
    自分自身は悪い犯罪者になったようでしばらく食事が出来ませんでした。

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    1. >匿名2014年4月8日 22:30さん
      身近でそういうことがあっていたなんて知ると……。俺はあなたほどは真摯な受け止め方はできないと思いますが、それでもかなり気分が悪くなるんじゃないかと……。

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  5.  怖いね。 北朝鮮の強制収容所の保衛員や秘密警察と同じ事をしている。 
    他人の人権人格を否定。 北朝鮮では、何も罪もない、又はたいしたことをした訳でもないのに
    強制収容所へ送り込まれて、拷問・虐殺・処刑が数十年続いている。
     北朝鮮の当局幹部は、自らは手を汚さず、全て、何も罪もない人達を、一般の国民の保衛員が
    拷問・虐殺・処刑を行なっている。 
     これと日本をはじめとする凶悪犯罪は何かリンクするものが感じられる。。。

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  6. 先日の佐世保の事件をきっかけに過去の事件が気になり調べました。犯罪者が育つ環境って?育て方とは?と子を持つ親として知りたくなったからです。北九州のこの事件は群を抜く恐ろしい事件でした。当時も知ってはいましたが、これほど残虐とは。ショックでした。松永のような人間がこの世にいるとは。そう思って恐れおののく私を俺ほどの人間は居ないだろう?と影からあいつがほくそ笑んでいそうで、何とも言えない気持ちで数日間を過ごしました。私は死刑には反対ですが、こいつが万が一世間に出てくるようなことがあったら大変なことになりかねないと思います。なのであいつだけは死刑に賛成です。が、二度とこういう人間が出てこないように研究して欲しいと思います。何しろ普通の犯罪者とは違いますもの。永山則夫には犯罪を犯す理由というか、亡くなられた方を思うと形容し難いのですが、何か自分の中で彼を理解できるものかある。佐世保の女の子も精神の障害と環境、育ち方等、憶測ですが何となく理解できる。しかし、この松永だけは本当の悪魔、鬼畜、としか思えない。一体どうやってあの悪魔がうまれたのか?どうして子供達までか犠牲になるまでのがれられなかったのだろう?この事件の詳細を知って以来、頭からはなれてくれないのです。私や家族があのような悪魔に出会わない事を祈るばかりです。

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    1. >匿名2014年10月9日 2:33さん
      俺は死刑には消極的賛成派なのですが、この事件を見ると、まったくあなたと同じような気持ちになりました。ぜったいに社会に戻してはいけません。彼のような人間を生み出さないために何かできるのか、あるいは人間は一定の割合でああいう不良品ができるようになっているのか。ただただ恐ろしく、本当に、俺も自分や周りが被害に及ばないことを祈るばかりです。

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