2014年6月25日

出産立ち会い記

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次女の出産に立ち会った。これから書くのは、その時の記録と記憶、そして感じたことである。

出産に立ち会う夫は、研修医時代の産婦人科研修で何人も見てきた。赤ちゃんの出生の瞬間をビデオで映している人、分娩の長さに耐え切れずイスでうたた寝している人、枕もとで妻の手を握る人など、いろいろな人がいた。

サクラの出産の時は祖父の四十九日と納骨式で立ち会わなかった。今回もタイミング次第だと思っていた。それが立ち会えることになった。自分はいったい何をしたら良いのだろう、何かできるのだろうか……。写真? いや、ビデオ? 

そんな俺の愚考を嘲笑うかのように、妻の出産は驚くほど急ピッチで進んだ。

14時ちょうど、怒責開始。
14時27分、破水。
14時35分、分娩。

出産した病院のベッドはもの凄く大きくて、幅は俺が横に寝ても納まるくらいだった。出産が始まる前から俺は妻の枕もとにあぐらをかいて座っていた。不意に助産師さんが明るく、
「よーし! 陽があるうちに生むよ!!」
と言った。この時、13時半頃だったろうか。そして、本格的な出産が始まった。カメラもビデオも用意する間もなかった。

ひたすら頑張る妻の手を握った。
「痛ーい!」
食いしばった歯の間から妻が小さく叫び、妻の爪が手に食い込んだ。まったく痛くなかった。妻はこういう事態を想定してちゃんと爪を切っていたらしい。怒責のたびに、俺は妻に覆いかぶさった。

繰り返すこと、数回。俺には「頑張れ」としか言えない。
「頑張れ、頑張れ」
助産師さんが、
「本当に上手! さぁ頭が出たよ!!」
えっ、もう!? と思って確かめると、確かに頭が見える!!

そしていつしか、それは俺自身の戦いにもなった。もちろん痛みは肩代わりできないけれど。頑張れ、という声かけが、いつの間にか、
「頑張ろう」
になっていた。それどころじゃない妻は、きっと覚えていないだろうけれど。

生まれた。
俺の2番目の子どもが。
立ち会ったからこその、父親の自覚。
そんなものは、ない。
ただただ感じるのは、妻への感謝。
ありがとう、お疲れさま。
そう声をかけて、おでこにキスをした。
それどころじゃない妻は、きっと覚えていないだろうけれど。

こんなに大変なのに、長女サクラの時に立ち会ってあげられなかったことを心から後悔。文句を言われても仕方がないと思った。何ができるというわけでもないけれど、ただそこにいるというだけで与えられる何かがある、それを痛感した。

ヘトヘトに疲れきった妻のほつれ髪をなおし、もう一回おでこにキスをした。
最大の感謝と、最深の愛を込めて。
それどころじゃない妻は、きっと覚えていないだろうけれど。

誰かに、立ち会って良かったですか、と聞かれたとする。
答えはもちろん「はい」だが、これは子どもへの愛情うんぬんの話ではない。立ち会おうが、立ち会うまいが、そんなことで子どもへの愛情は変わらない。

立ち会って得たもの。
それが何かを言葉にするのは難しい。
ただ、これだけは言える。
娘たちが成長して、妻に心ない言葉を投げつけた時、俺は本気で怒るだろう。これは立ち会いを経験する前から思っていたことではあるが、今の俺にとって当時の俺の「本気」は陳腐である。あの痛み、あの苦しみ、あの辛さを間近で見たからこその「本気」を持てたような気がする。

今なら言える。
立ち会いに迷っている男性には、絶対に立ち会ったほうが良い、と。
妻の陰部を見る必要もない、赤ちゃんが出る瞬間を記録に残す必要もない。そんなことよりも、ただ、そこにいてあげよう。あなたの体温、皮膚、筋肉、骨、声、吐息、体臭、口臭、そういったすべてのものが、きっとパートナーの支えになるのだ。


妻へ。
我が人生、深まりました。
本当にありがとう。

平成26年6月24日
手の甲に薄く残る爪痕を眺めながら。



8 件のコメント:

  1. 男性がみんないちは先生のように感じてくれるとすごくうれしいです。
    可愛い赤ちゃんの誕生ほんとうにおめでとうございます♪

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    1. >匿名2014年6月25日 8:14さん
      ありがとうございます。
      立ち会った男性の多くは、きっと似たような感覚を持つんじゃないかと思います。
      母は偉大なり、でした。

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  2. 赤ちゃん誕生おめでとうございます(^^)
    先生の奥様を想う気持ち、とても素敵です。
    ただ、それどころじゃない奥様…と思いきや、そんな時だからこそ女性というのは想いを受け取っているし、一生忘れないといって過言ではないと、4月に出産を終えた私は思います。
    いつまでも、素敵なご夫婦でいてください。

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    1. >芝田さん
      ありがとうございます!
      妻、覚えていますかねぇ?(笑) 具体的な記憶はなくても、想いが伝わっているとしたら、それはすごく嬉しいです。
      お互い、親として精一杯たのしみましょうね!!

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  3. 次女ちゃんの誕生、おめでとうございます!

    立ち会いした人の話を直接聞いたことはないのですが、結構びっくりしたり圧倒されすぎる人もいると小耳に挟んでました。安産で良かったですね(妹は2人とも延々陣痛でした、10時間くらい?)。奥さんが覚えていてくれるかどうかですが、生意気ながらいわせてもらうと、そういう旦那さまは普段から態度に思いやりが出ていると思います。横にいたことは分かっているのですから、心強かったのでは?

    サクラちゃんが妹さんともう遊びたがっているという微笑ましいツイートを読みました。ある程度年齢差があると、甥姪見てて思いますが下の子がいるのが嬉しいみたいですね。ともかく、すくすく育ちますように!

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    1. >hirokoyoshidaさん
      ふと思ったのは、研修医時代に他人の出産を何回も見たから、ある程度の心構えがあってたのかなぁと。だから妻だけに集中できた気がします。安産だったから、こちらも体力的に助かりました。
      今度はブログもツイッターも姉妹ネタが増えますよ!!

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  4. 先生の描写でその時の状況が浮かぶようです。涙がでました。それどころじゃないけれどとおっしゃいますが、奥さま、覚えてらっしゃいますよ、きっと。出産は激動の瞬間です。何かで読んだんですが出産に関する事ってご本人は記憶力が上がるってありました。幸せが伝わる素敵なブログです。いつも拙い文章で申し訳ございません。

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    1. >匿名2014年7月17日 22:15さん
      ありがとうございます。
      記憶に残っていますかねぇ、そうであれば嬉しいです。
      次のこの時にもぜひ立ち会いたいと思いました!!

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