2014年8月18日

【実話】 8月15日の怪異

「ねぇ……、おきて……! おきょうがきこえない!?」
11時30分、妻の声で飛び起きた。そして妻の発した言葉の意味が寝ぼけ頭に沁み込むと、一瞬にして全身が総毛だった。
「お経が聞こえない!?」
8月15日。今日は怪異があってもおかしくない日だ。

子どもは二人とも寝ていたが、暗闇を取り払いたくて豆電球をつけた。妻の不安げな顔と目が合う。耳を澄ますと、夏の夜の涼しさにのって虫たちの声が聞こえる。しかし、念仏は聞こえない。少しホッとする。鳥肌も鎮まった。

「聞こえないよ」
「しっ! ほら!!」

警戒する猫のような目で、妻が身を硬くした。もう一度、音に集中する。すると……。

なんだ? これ?

背筋をぞぞぞとした感覚が這い上がってくる。お経かどうかは分からないが、確かに低く長く引きずるような男の声が聞こえる。テレビもラジオもつけていない。真夜中に、こんな田舎の一軒家で男の声が聞こえるなんておかしい。

それでも、だんだんと冷静になってきた。そしてふと、ここに赴任してきた5年前の8月15日を思い出した。あの日も度肝を抜かれたのだった。

酒を飲んで良い気分になっているところで、突然に家の中でお経が鳴り響いたのだった。音の出所は……、各家に設置してある地域放送の受信機である。当時、これは何かのミスだと思い、気持ち悪く感じたものだった。後日、病棟のスタッフから、地域によってはお盆にそういう放送を流していると聞いて安心するやら、「宗派関係なし!?」と驚くやらだった。

今回も音の正体は地域放送だった。ただし、受信機は消音にしていて、妻が聞いたのは地域に何ヶ所かあるスピーカーからの音だった。まったくもって人騒がせである。

ところで、寝る前、2歳半の長女サクラに、
「じぃちゃん、来てる?」
と聞くと、真上を指差した。
「何か言ってる?」
そう尋ねても、サクラの語彙では答えられない。サクラの顔を見ながら、まぁそんなもんだよな、と一人納得しかけたところで……、
「おーい」
長女が天井に手を振って笑った。思わず顔を上げたが、そこは何もない天井。「じぃちゃん、ありがとう」と手を合わせると、いろいろな想いで胸が一杯になった。

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