2015年7月27日

90代は人類のエリート

さすが、90歳まで生きる人というのは危機察知能力が高い。今回はそんな話。

90歳の女性が、自宅での不穏興奮が著しいため入院となった。家族の話からすると、どうやら40代後半から自宅にバリケードを張るなど精神病を思わせる症状があったようだが、未治療のまま半世紀(!)近くが経ってしまった。

興奮が強いので保護室に隔離したが、薬を飲むことを徹底的に拒否するので、幻覚妄想症状が一向に治まらず、敵対的かつ攻撃的そして暴力的である。やむなくネオペリドールという筋肉注射を打つことにした。これは1回打てば効果が1ヶ月持続するという優れた薬である。ただ90歳なので恐る恐る25mgという少量にした(※)。ところが10日ほど待っても、これがまったく効かない。

このままではとても退院できそうにない。そこで「秘密投与はしない」という俺の診療ポリシーを曲げて、リスパダールという液剤を味噌汁に入れてみた。するとどうしたことか、いつもは味噌汁をすんなり飲む彼女が、この時は口もつけずジャーッと捨てたのである。ニオイでバレたのかもしれないが、それよりは、自分の望まないことに関する「気配」のようなものを感じ取った可能性のほうが高い気がする。まるで忍者かサムライである。いや、仙人か。なにせ90歳だ。

「90代は人類のエリート。ここまでくると、そう簡単には死なない」

かつて外科研修をしていた頃の先輩医師の言葉を思い出す。そんな危機察知能力が高いからこそ、彼女もまた90歳まで元気に生きてきたのだろう。ずいぶん前に他界した夫を含め、周りはかなり振り回されてきたようだが……。

※その数日前にセレネースを筋肉注射し、副作用がないことは確認済み。

<関連>
精神科患者の家族による秘密投与の切なさと後ろめたさ

6 件のコメント:

  1. いちはさま

    忍者かサムライ、仙人…(笑)
    いや、笑ってはいけないですよね… (※)
    とにもかくにも90代までお元気ということは
    仰る通り人類のエリート、ですね!

    ※すみません… いちはさんの表現、面白すぎて思わず笑ってしまいました…

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    1. >果穂さん
      まぁ90代はただの仙人、100歳越えたらエリート仙人というところですかね(笑)
      この女性、俺を見ると毎回のように、
      「あんたはキレイな顔をしているねぇ。ほんとにキレイ。どんな女でもあんたには寄ってくるよ」
      と言って俺の手を握ってきて、先日なんて、俺の結婚指輪をはずそうとしてきましたよ(笑)

      大正時代に生まれていたら悪い男になっていました(笑)

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  2. 危険察知能力かもしれないし、被害妄想・拒絶感がかなり強いのかもしれないし、とにかく、大変ですね・・・リスパダール液は少し酸っぱいけど、セレネース液なら完全無味無臭だけど・・・

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    1. >うーたんさん
      セレネース液は過去に他の人に使いました。無味無臭というのが良いのですが、どちらにしろ秘密投与は良い気持ちしないですね。
      その後、この女性にはなんとリスパ4mlも入っているのですが、攻撃性は依然として衰えず、大したものです。

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    2. 今晩は。時折に何か面白い本は無いだろか?と
      思った時にこちらの場所を参考にさせていただいております。
      (それがまた実行してハズレが無いもので)

      今週、高校時代の友人と福岡で再会した折に消化器系の一人から
      自分たちの親世代になるのですが「80代は特別な年代ぜ」と
      聞きました。幼少時の食生活や突然変化した世相、それをまた
      生き延びたという事実が何かのしぶとさを身につけたのだろうか
      とも感じます。

      今回の記述を眼にして「なるほどなあ」と感じるものがあります。
      転じて自分は製造業の勤め人ですが疾病休業率の内訳を
      安全衛生委員会(法制化されていてその様な仕組みが
      民間企業にはあるのです)からの報告で見れば筆頭は風邪に
      代表される呼吸器系、次が所謂メンタル疾患。それから悪性腫瘍の類。
      心身の内、心について仮にシブトサ指数みたいなものが有ったとするなら
      現代の30-50代男性は5人くらいでも一人の80-90代には勝てぬか?
      などと思う次第です。

      ところでこちらの場所。相互リンクではなく(自分はそういうシステムを
      持っていないので)単にURL紹介をするのはダメでしょうか。
      宜しくお願いします。

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    3. >AN SHさん
      ありがとうございます。
      「シブトサ指数」 この指数いいですね! 医療職では、特に高齢者と接することが多いのですが、
      >幼少時の食生活や突然変化した世相、それをまた生き延びたという事実
      これを感じることが多いです。価値観もガラッと変わったのを、それなりに受け容れ消化してきた人たちですもんね。

      URLをご紹介いただくのは嬉しいです。よろしくお願いします!

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