2015年7月7日

ホメオパシーとプラセボと悪魔と魔術師 (前編)

ホメオパシーでうつ病を治した、という論文が『精神科治療学』の2015年5月号に載っていた。その中でも、「おい、これはないだろ!」とツッコミを入れたくなった部分を紹介する。

患者は36歳の男性で、意欲低下と集中力低下を訴えている。うつ病の診断で多剤による治療を行なわれていたが良くならない。そこでホメオパシーに期待をかけて、論文筆者のもとへ来院した。

男性はこの時点で休職中なのだが、療養態度がひどい。
ビールが非常に好きで1日1000ml以上、ワイン1本、昼から飲酒している。
おいおい……、休職中だろ……。俺ならこの時点で、うつ病の診断は一旦保留にし、何よりもまずアルコール依存症だと告げて断酒を勧める。仕事を休んで好きな酒を昼から飲むなんて、仮に本当にうつ病だとしてもこんな生活で病気が治って復職できるはずがない。

この男性はホメオパシー薬(Aurum sulphuratum 30Cを1日1錠 ※本文末で補足説明)の治療を開始してから順調に回復していったようだが、これは本当にホメオパシー薬の効果なのだろうか? 論文筆者はホメオパシーについて概ね以下のように書いている。

ホメオパシーでは疾患そのものを治療対象とはせず、診察では病気の人を全体的に理解し、病気の人の全体像を一つのパターンとしてとらえる。

こんなキレイごとはホメオパシーに限ったことではなく、どんな治療学の本にも書いてある。試しにこの文章の「ホメオパシー」を「精神科」に置き換えれば、数多の精神科テキストの巻頭の言葉として何度も目にするようなものである。ただし、実際にこの理想を現場で常に実践する(できる)こととは別の問題であるが。

では何が効いてこの男性が回復したのかというと、それはきっと理想をキレイごとで終わらせず、日々の診察で真摯に実現・実行しようとする先生の人柄であろう。これを精神科では皮肉っぽく「人柄精神療法」とも言うが、ここには多かれ少なかれ敬意も混じる。そしてこうした真面目な先生なのだから、ほぼ間違いなく断酒するなどの生活指導もしているはずだ。

つまりホメオパシー薬が効いたわけではなく、ホメオパシーの理念を丁寧に実行された先生という「人薬」が男性の人生の立て直しを支えたのだ。では、ホメオパシー薬はまったくの無力だったのかというとそうでもない。プラセボとしての効果は充分にあったはずだ。

このあたりが次回の話になる。


※Aurum sulphuratum 30Cを1日1錠。この「30C」についてだが、1Cとは成分の入った溶液を「100倍希釈」したという意味で、「30C」はそれを30回繰り返したということだ。つまり「100の30乗」(10の60乗)に薄めたものということ。「10の60乗」というと、1mlの成分を薄めるのに地球上の海水でも足りない(詳細は各自調査・計算されたし)。ウンコまみれの下水や福島の汚染水ですらここまで薄めればまったく無害である。つまり中身はただの水で、飲み過ぎなければ副作用もない。ちなみに飲み過ぎた場合の副作用も成分とは無関係で水中毒だ。

<関連>
ホメオパシーとプラセボと悪魔と魔術師 (後編)

14 件のコメント:

  1. Ciao いちはさん
    確かにおっしゃる通りだと思います
    私は とりわけ医療に従事してる人にはこの人柄 を求めます
    例えば 癌の人に 深刻な顔で 癌です とあれこれ 過酷な診療を説明するのではなく、
    あ、癌なんて 今やたくさんの人がかかってますし、一種のおできみたいなもんですから大丈夫 大丈夫 頑張って 一緒に治しましょうとか、、 嘘でも言ってくれたら 私は治癒率がずいぶん上がると思うのです

    ちなみに ホメオパシー 私も懐疑的だったんだけど
    年に二回 皮質ホルモンの注射をうって凌いでいく以外 治癒はありませんと、二ヶ所の獣医に宣言されたうちの猫の不二子の喘息が、ダメ元とつれていったホメオパシーで それも二週間で完治してから ちょっと一目置いてます
    この場合 先生の人格 あまり関係ないですからね、、笑

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    1. >junkoさん
      ペットの場合、飼い主の心理も影響するかもしれませんね。ホメオパス医がjunkoさんを安心させたのは大きかったのかもしれません。ペットと同列にしては申し訳ないですが、小児科医の場合も同様のことがある、と小児科の後輩は言っていました。親を安心させるだけで子どもの病気が治る、ということが決して稀ではないんですよね。精神科でも似たようなことがあります。

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  2. いやぁ。。。そんな報告のせる雑誌も、ちょっと・・・
    まぁ、でも、いちはさんの面白い解説有難うございます!

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    1. >匿名2015年7月7日 22:07さん
      同僚Y先生なんて、かなり辛辣に、
      「これは編集者による見せしめかもしれませんね。ホメオパシーなんてこんなもんですよ、みたいな」
      なんて言っていましたから(笑)

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  3. お言葉返すようですが、全然安心してませんでした
    私はこう見えても疑り深いのでし
    むしろ疑心暗鬼で投薬っていうか、薬じゃあないんだけど、1日二回 それもごく少量
    二日目に もうぜーぜーしなくなったので、むしろびっくりしました
    ちなみに私の友人の猫も ホメオパシーで救われてます

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    1. >junkoさん
      俺も代替医療を全否定はしないし、オカルティックなものは好きなのですが、一方で医師としての科学的態度も失ってはいけないと考えています。
      本文末の注釈に書いたように、ホメオパシーで使われる薬は「ただの水」です。これで病気が治るわけはないのですが、プラセボ以外で考えられる可能性はもう一つあります。それは、「実は中に薬が入っている。しかも通常以上に高用量」というものです。実際にホメオパシーだったか、他の代替医療だったかで、そういう事例はあるようです。
      もし通常医療より値段が安いうえにアクセスも良い、という代替医療で効果があったというなら信用しやすいのですが、たいていは通常医療より高いかアクセスが悪いので、それもプラセボ効果を生む要因だとは思います。
      費用が同程度なら、あとは結果オーライだったら通常でも代替でもどちらでも良いとは思います。医療は結果が大切ですから。

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  4. 、、しつこくてごめんなさい

    おっしゃることはわかるのですが、驚くほど安かったのです
    一本300円ほどのものを 一回に10滴服用 1日二回ですから どんだけ安いかわかるでしょ?
    ホメオパシーは きっと医者にぼったくられるか、薬がめちゃくちゃ高いと思っていた私は再びビックリしたのでした
    だってそれ二本で完治したんですよ

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    1. >junkoさん
      俺みたいな部外者の後付け解釈はいくらでもできると思うのですが、大切なのは治ったことですもんね。ただ、今後はホメオパシーにはあまりお近づきになられないことをお勧めはします。
      有効成分となるはずの原子・分子が化学的に一つも入っていないという指摘に、「水が記憶する」ということを言うような団体ですので、不二子ちゃんの今回の治癒はあくまでもラッキーショットだったと考えておく方が良いと思います。

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  5. >junko様
     通りすがりの者ですが、1回10滴しか使わないものを、2本使い切るとしたらそれなりに時間がかかりますよね? 時間の経過による自然治癒、というのもあるかもしれませんよ。その長い期間、junko様の治ってほしい気持ちがずっと猫ちゃんに注がれていたわけですから……。

     自分もホメオパシーのレメディ飲んでみたことあります。効果の実感はなし。でも、レメディを飲むことで自分の健康にいつもより意識が行き、結果それが良い効果を生むこともあるかもしれないなと思いました(体重計に毎日乗って、体重を意識していると自然に自分が食事や運動などを調整して、太らないとか、ダイエットに役立つとかいうじゃないですか。そんな感じで)。
     バッチフラワーとかプチパニック時にたまにお呪い代わりに使いますので、100%の否定はしないけれど、盲信するのは危険だと思っています。

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    1. >匿名2015年7月16日 21:27さん
      パッチやレメディもありますね。
      セントジョーンズワートでしたっけ、あれは科学的に(つまりは公正にデータをとって統計処理して)うつ病に有効性がちょっとあるみたいですね。精神科医として興味はあるのですが、コストとベネフィットが釣り合っているのかどうか分からないし、公的病院では導入もできませんね。

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    2. セントジョーンズワートは、まだ植物ですから、薬効があってもおかしくないと思います。漢方薬に植物原料が多いように。ハーブには医薬品ほどの切れ味はないにしても、薬効のあるものがあると思います。エキナセアとか効果を感じましたし。ただ、現在販売されている各種ハーブのサプリでは、有効成分量が製造会社によって違うので、下手に日本の病院で処方するのは正しくないでしょうね。
      セントジョーンズワートは日光過敏性が出ることがあると聞いたので、肌が弱い自分は飲まないと決めています。ピルなど、相互作用のある薬も多いですし。

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    3. >匿名2015年7月23日 15:24さん
      漢方薬に関しても、俺は半信半疑なのです。半信だから、決して全否定ではないのですが、やはりどこか百パーセントの信頼を置けないところがあります。でもまぁ、これは西洋医学に関しても同じで、精神科の薬を百パーセント信用しているわけでもないんですけどね。疑う心は、少なくとも処方する側は常に持っておかないといけないと思います。

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  6. 匿名さま
    いや 一本が 目薬のびん位の大きさですから 投薬は せいぜい2ヶ月です

    別にホメオパシーの宣伝するわけではないので、皆さんが信じるか信じないかははっきり言ってどうでもいいのですが、事実は事実ですから
    なお不二子は 一年半ほど病んでいました
    それがすっきり治ったのです
    奇跡ってことにしておいてもらっても構いません 苦笑
    治ったことが一番大事なことですから、、

    ちなみに 私は 結構放任なので、一日中年がら年中心配していたわけでもありませんし、、 苦笑

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  7. 大事なのは再現性でしょうね・・・また具合悪くなった時に効くかどうか・・・

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