2015年8月21日

精神科医は海賊船「治療号」の船長である‏

入院患者を受け持つ精神科医は、「治療号」という名の海賊船の船長である。

船長は地図・海図を読み、宝島の場所を乗組員に示す。宝島の正確な場所が分からない場合でも、あの海域にありそうだというわりと確度の高い推測をしてみせる。出発前には、乗組員たちを焚きつけ、盛り上げる。恐れるな、錨をあげろ、帆を張れ、さぁ出発だ。

乗組員とはもちろん病棟スタッフである。各自に持ち場があり、役割がある。そして忘れてならないのは、それぞれが個別の経験と、そこから得られた知恵を持っているということだ。ベテランのスタッフだと、くぐり抜けてきた修羅場の数は船長を超えることも多い。

入院患者の調子が悪いのは、海賊船「治療号」が嵐に遭っているようなものだ。波風に翻弄されながら大揺れする船の上で、「宝島を目指せ!」と指示し続ける船長は滑稽である。こういう状況で「治療号」の船長が伝えるべきメッセージはただ一つ。

船を沈めるな。

「船が沈む」というのは、患者の死という最悪の事態から、スタッフのモチベーションの消失まで、ありとあらゆることが含まれる。ここで大切になるのが、常日頃からの乗組員とのコミュニケーションである。それさえあれば、船長が事細かに指示を出す必要はない。そもそも全てのことに細かい指示を出すことは不可能だし、嵐の中にあって細部に口を出してくる船長は邪魔者になりかねない。ベテランの経験、中堅の知恵、ルーキーのパワーといったものを信頼して、任せるべきは任せるほうが良い。

これが俺の病棟における治療観である。

恐れるな、錨をあげろ、帆を張れ、さぁ出発だ。

ヨーソロー!


※例えとしては海賊船でなく普通の船の船長でも良いのだが、ワンピースが人気なので海賊船に喩えてみた。

0 件のコメント:

コメントを投稿