2015年8月6日

ほとんどの若手医師が必ず一度は味わう「自分が主治医」という苦悩

隔離した統合失調症患者が、主治医に対して敵意むき出しで攻撃的となった。そして主治医に対し「お前は信用できん! 主治医を代われ!」と怒鳴り散らしたということで、主治医から相談を受けた。その内容は概ね以下の通り。

1. このまま自分が主治医を続けて長く隔離になるのは本人にとって良くないのではないか。
2. 主治医としては、自分が妄想対象になっていると考える。こういう場合、主治医の交代をしたほうが良いのかもしれないと悩んでいる。

俺は主治医を替わらないほうが良いと考えた。理由は二つある。

まず、すでに俺の受け持ち患者が23人いること。一方で彼の担当は10人なので、多少きつくてももう少し踏ん張れると思ったし、踏ん張らなければならないとも考えた。振り返れば、俺が独りでやらなければいけなかった一昨年は、患者40人を受け持つところからのスタートだった。いずれ彼にも同様の事態が起きる可能性は大いにある。だから今の彼にもう少し負荷が必要だ。そういう判断があった。

もう一つの理由は、少し複雑だ。看護師の「早く隔離したほうが良いのでは?」という不安や提案を押し切って、なるべく隔離や抑制をせずにきた粘り腰のスタンス(※1)と、「悪くなるのは想定内」(※2)という彼の治療方針で現在の状態になった。ここで主治医を交代するとなれば、スタッフからは「ほらみろ、やっぱりダメだったじゃないか」と、良くて冷笑を浴びるか、悪くすれば信頼を失いかねない。だから困難はあっても、自分なりの方針を貫いて改善・退院までもっていくのが、今後の彼と病棟スタッフとの信頼関係にとっても大切だと考えた。

病棟に患者をもつ精神科医には、自分なりの治療観や人間観の他に、病棟運営論(病棟論)というものも必要になる。また、臨床の現場で柔軟に対応するには、逆説的なようではあるが、自らの中にブレない信念のようなものを持たなければいけない。そうしたことを、この難局に対処していく中で身につけていってもらえたらという願いもある。

これまでは彼の治療にほとんど口出しせずにきた。しかし今回は、本人にとっても、患者にとっても、病棟スタッフにとっても、少し口出しすることで何か良いほうに変化があればと期待して、上記の他にいくらかアドバイスした。以下、いくつか要点を挙げる。精神科に関わる人だけでなく、そうでない人にも何らかの参考になることを祈る。

1.患者に対してもっと毅然とした対応を。患者から言われたとおりにする必要はないし、少なくとも今は患者が現実的な判断をできる状態ではないのだから、主導権はこちらが握っておくほうが良い。
2.隔離・拘束に関してはもっと柔軟に考えて良い。法的ガイドラインは尊重しなければならないが、同じ人の同じ症状でも、部屋に余裕があるから隔離、逆に状態の悪い人が入院して部屋がないから押し出しで解除ということもあるのだから。大切なのは、それが治療的かどうか。
3.「悪くなるのは想定内」だとしても、それをスタッフには言わない方が良い。「悪くなるのが分かっているのに、どうして何もしないのか?」と不信感を持たれる。また、悪くなる想定があるなら、悪くなる前に手を打つほうが良い。
4.精神科医としての治療観、人間観、病棟運営論、リーダーシップに関する考え方などを形成するために、専門書以外の組織論やリーダー論といった本も読むほうが良い。
5.病棟スタッフ、担当看護師と密に連携をとるべきである。朝のミーティング、仕事中、休憩中、個人的な飲み会などを利用して、自分の治療観や病棟論といったものを少しずつ伝えていき、自分が働きやすい環境を作る(※3)

最後に、こういう指導(?)や指摘やアドバイスをすることは凄く気をつかうことだが、自分自身にとっても良い経験になったと思う。

※1 こういった主治医の治療観、方針、姿勢は尊重されなくてはならない。また、粘ることは決して悪いことではなく、むしろ精神科では賞賛されることでもある。

※2 上記3で述べたように、今回は本人に対しきちんと指摘した。

※3 これは俺が医長になる前から水面下で熱心にやってきたことでもある。病棟で常にユーモアを意識することもそうだし、言葉で伝える以外にも、看護師に知って欲しい内容の書かれた本のコピーを休憩室に置いておくなどして知識や知恵の普及に努めた。


<関連>
学び、トライし、エラーし、フィードバックし、アレンジし、また学ぶ。こうして自分なりの診療ができあがる
「経過観察」「様子を見る」を何もしないことの言い訳に使ってはいけない

0 件のコメント:

コメントを投稿