2015年9月17日

精神科への強制入院とストックホルム症候群‏

精神科への強制入院、隔離(個室に鍵をかける)、抑制(手足をベッドに結ぶ)をしても患者から恨まれたことはない。いや、一時的には憎まれているのかもしれないが、それをいつまでも根にもって攻撃的な態度をとったり、実際に暴力を振るったりされたことはない。これは俺に限ったことではなく、多くの精神科医が同じだと思う。

きっと患者と精神科医が長く接するうちに、精神科医の人柄や想いが伝わって、患者の中に信頼感が芽生えるからだろう。ただ漠然とそんな風に考えていた。しかしそれは、実は大間違いだったかもしれない。ふとストックホルム症候群という言葉が頭に浮かんだのだ。

この症候群の名前の由来は、1973年のストックホルムにさかのぼる。8月のある日、ストックホルム市内の銀行にマシンガンを持った二人組の強盗が押し入った。強盗は4人を人質にとり、131時間にわたってたて込もった。その後、解放された人質は強盗犯に好意や共感、さらには恋愛感情まで抱くに至った。この現象をさしてストックホルム症候群という。そしてこうした現象は、ハイジャックや誘拐、監禁といった暴力的な拘束状況に置かれた被害者においてしばしば見られる。

精神科への強制入院や隔離・抑制は、患者にとって不本意という点で、まさに「暴力的な拘束状況」と言える。もちろん、主治医を信頼したり親しみを感じたりする患者の全員がストックホルム症候群に陥っているわけではないだろう。とはいえ、そういうこともあるのだと意識しておくことは自らの慢心や驕りを防ぐことにつながるし、日常診療の心構えにおける小さな変化として良い影響を与えることになるのではなかろうか。

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