2015年12月28日

人生の転機を迎える人の周囲が、その人のうつ病予防のためにできることとして知っておいて良いこと 『うつ病と頭の中の喪失感』

精神科医・中井久夫によると、ある棋士が引退した時、それまでに覚えた棋譜が頭の中でガラガラと音を立てて崩れ去る体験をしたそうだ。似たようなことが自身の受験体験にもあり、大学に合格した瞬間に微分積分が解けなくなった気がしたし、実際に問題を見ても頭が反応しなくなっていた。

こういうふうに、「不要なものが頭からなくなる感覚」というのは確かにある。

受験勉強で覚えたことが頭からなくなる程度のことですら、人によっては喪失感をおぼえるだろうし、もしかしたらその喪失感が大学生のいわゆる「五月病」の原因の一つなのかもしれない。

もう少し視野を広げてみると、引っ越しや定年退職といったことがうつ病の引き金になることがあるのも、新しい土地や次の人生に慣れないからということに加えて、この「不要になった知識が頭からなくなることによる喪失感」が関係しているのかもしれない。

この仮定が正しいとすれば(実際にある程度は正しいと思うが)、例えば仕事に関しては、隠居・引退する人に対して、後輩たちが「きっと何かトラブルがあるでしょうし、その際にはご相談に伺います」と声をかけて見送れば、立ち去る人に「知識を保つ意義」を与えることになり、「ガラガラと一気に崩れ去る喪失感」を体験させずに済むかもしれない。逆に、安心感を与えようとして「あとのことは心配いりません、任せておいてください」という声かけは、知識の崩壊を助長し、喪失感からうつ病へと至る危険性を高めるだろう。

「知識の崩壊と喪失感を防ぐ」
これは簡単なようで難しいが、きっと大切なことである。そのためにできることの一つとして、今の立場から大きく変わったところへ行く人に対して、「あなたの頭の中にあるソレが必要な時がくるかもしれませんから、大切に保管しておいてください」と声をかけてあげる。そしてこれは「頭の中の何かがガラガラと音を立てて崩れ去った後」ではダメで、あくまでもそうなる前でないといけない。

これは、人生の転機を迎える人の周囲が、その人のうつ病予防のためにできることとして知っておいて良いことではないだろうか。


棋士の体験については、本書の中にあった。

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