2015年12月8日

病棟スタッフを耕す 「笑い」を処方するということ

精神科において、「病棟を耕す」という表現を最初に用いたのが、どの大御所先生かは分からないが、「病棟スタッフを耕す」という表現を日本で最初に使うのは、きっと俺が初めてだ。

この病院に赴任した6年前、最初に感じたのが病棟スタッフの緊張感ある雰囲気だった。これは良く言えば「引き締まった」、悪く言えば「ピリピリしている」。最大の理由は、俺が敬慕し続ける指導医Y先生が放つ空気感だったと思う。そしてその雰囲気は、俺が理想とするものとは少し違っていた。まだ駆け出しのペーペーだった俺が、指導医の創りあげた病棟を見てこんな感想を抱くのは身の程知らずも良いところだが、とにかく俺は病棟を自分の理想に近づけたいと思った。そんなに小難しい理想ではなかった。ただただ、もっと「笑い」のある病棟にしたかったのだ。

それから3年間、Y先生のもとで学びながら、地道に「病棟スタッフを耕す」ということを意識した。といっても、これもまた難しいことは考えていない。ただジョーク、ジョーク、とにかくジョーク。病棟で、飲み会で、休憩室で。医師のジョークでスタッフが笑う。スタッフの笑顔は患者に伝わる。ある患者が笑えば、別の患者が笑う。笑顔の連鎖が病棟全体を柔らかくする。きっとそうなるはずだ。

Y先生が去られて「独り医長」になり、一気に40人の入院患者を受け持つようになった時、
「自分が耕してきたところに種をまいて花を咲かせるのは今だ!」
そう考えた。とはいえ、やはり大したことはない。日中だけでなく、毎朝のミーティングでもスタッフの笑いを引き出すよう心がけただけだ。

表情というのは不思議なもので、本物の笑顔ではなく「笑顔っぽい顔」をつくるだけで気持ちが少し明るくなり、「しかめ面のような顔」をするだけで気分まで悪くなる。これは多くの科学的研究で確かめられている。また、人は無意識に相手の表情のマネをすることも分かっている。ということは、医師が朝のミーティングに笑顔を持ち込むか、しかめ面を持ち込むかで、スタッフの表情に影響が出て、それはそのまま患者の表情になるということだ。

だから、毎朝、笑いを処方する。

ちなみに。

「笑われる」のではなく「笑わせる」。

こんなこだわりは芸人だけが持てば良いと思っている。誰かが笑顔になるのなら、笑わせるでも笑われるでもどっちでも良いじゃないか。この境地に達したオッサンならではの精神医療が、うちの病棟の持ち味である(今のところ)。

こうして書いてみると、俺にとって「病棟スタッフを耕す」というのは、つまるところ「笑い」を大切にするというだけの簡単な話であった……。でもまぁ、日本で最初に「病棟スタッフを耕す」を使ったのは俺だからね!!


<関連>
精神科診療における笑いについて

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