2016年2月12日

妄想の治りかた

精神病性の妄想は薬で良くなることが多い。その治り方であるが、ある日を境にして、
「今までの考えは妄想でした、勘違いでした」
となることはほとんどない。多くの場合、妄想が減ったりなくなったりすることに対して、“患者なりに”合理的な解釈をつけていく。

例えばもの盗られ妄想では「最近は盗られなくなった」と言うし、被害妄想では「攻撃が減った」とか「向こうも諦めたのかもしれない」とか、そういう風に考えるようになる。

ある日、頭髪の減少が気になる女性が精神科にやって来た。夫も子どもも髪の毛の量は変わっていないし、抜けている量も普通だと言う。精神科にかかる前に数人の皮膚科医にもみてもらっていたが、いずれも異常はないという診断だった。それでも本人は納得がいかない。髪の毛のことが気になって憂うつになり、不眠にもなり、家事も手につかなくなってしまった。診察の結果、妄想を伴ううつ病と診断した。そして、妄想も抑うつ気分も抗うつ薬で改善するだろうと判断した。診察の最後に、夫と本人から「どんな感じに治るのか?」と尋ねられた。

「あくまでも抜けているのが気のせいだとしての話ですが(※)、薬が効いてきて、ある日を境に『髪の毛が抜けていたのは勘違いだった』となることはないと思います。抜ける量が減ってきたとか、抜けても気にならなくなったとか、そういう風になるのではないでしょうか」

こんな感じで説明した。抗うつ薬を飲み始めて1ヶ月後、それとなく患者に髪の毛のことを尋ねたところ、
「相変わらず抜けているけれど、気にしても仕方ないですからね」
と笑顔であった。それに伴って憂うつも不眠も改善した。

こんなふうに妄想の改善のしかたを観察するのはなかなか面白いもので、これは精神科医の役得である。


※患者へ説明するにあたってのこういう前置きは、抜け毛に関して悩んでいる本人にとっては非常に大切である。こういう細やかさは絶対に忘れてはいけない。

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