2016年2月8日

それは本当に認知症なのか?

入院中の高齢女性が認知症の疑いで紹介されてきた。そこで事前にカルテをチェックした。

彼女は精神科受診の12日前に40度の発熱があって救急車で来院した。初期対応のカルテは2年目の研修医が記載していた。そしてそこに気になる単語を見つけた。
「高度認知症」
“疑い”は付いておらず、確定したような書き方であった。

内科診察の結果、発熱の原因精査のため入院となった。翌日の看護記録には、
「認知症で不穏あり」
との記載があった。この当時、抗生剤での治療が始まっていたが、まだ40度の発熱は持続していた。

さて、精神科での診察時はどうだったのかというと、話しぶりはしっかりしており、長谷川式と言われる認知症検査で30点満点中の21点。日時は完全に把握しており、4桁の数字の逆唱(「3529」を逆から言ってください)もできた。網膜色素変性のため目があまり見えず、箱の絵を描き写す検査はできなかった。軽度認知機能障害と診断したが、短期記憶の障害はあるようで、認知症のごく初期という印象だった。

この時に付き添った家族(遠方に住んでいる娘と孫で、この入院で久しぶりに患者と再会)に、主治医からはどういう説明を受けているか尋ねたところ、
「ひどい認知症かもしれないと言われました」
とのことだった。家族の話では、入院翌々日に面会した際、病室で「餅を焼く」と言ってオーブンを探すなどの行動があり、それを見た家族は「知らないうちに、こんなにボケが進んだのか……」と思ったらしい。それで内科主治医に相談して精神科受診となったようだ。ちなみに、この時点でも39度近い発熱があっている。

家族には、
「それは“せん妄”という状態です。例えば若い男性でも、交通事故を起こしてICUで目を覚まして『殺される!』と叫んだりします。それと同じです。今回は40度の発熱があってボーッとするのは当たり前で、さらに環境が変わったということもあって、せん妄を起こしたのだろうと思います」
と説明した。そして、
「実際に今日の診察を見て、どう思われますか?」
と尋ねたところ、
「意外にしっかりしていました」
と笑顔を見せた。

翌日、初期対応にあたった研修医を精神科診察室に呼んで、高度認知症と記載した根拠を尋ねてみた。ドギマギしていた研修医はすぐにこちらの意図を察したようで、「判断するのが早すぎました、すいません」と答えた。そこで以下のようなアドバイスをした。

1. 身体診察は過不足ないと思うが、この時点で高度認知症と判断するのは早すぎる。敢えてキツイ言葉を用いるが、明らかな誤診である。
2. この誤診のせいで、治療・看護者の目が曇り、その後の状態がすべて認知症のせいにされる恐れがある。実際に、入院後の看護記録には「認知症で不穏あり」と記載されてしまっている。
3. 家族に無用の動揺をさせてしまっている。そういう時に、「今の状態はせん妄であり、一時的に混乱しているだけだと思うので、もう少し体の状態が良くなってから認知症の検査をしてみましょう」と家族を安心させるのも医師の大切な仕事である。
4. こういうことは君が研修医だから教えられるが、研修医を終えてから数年も経って今回のようなことがあっても、こうやって教えることは難しい(紹介状の返事を辛辣に書くことはあるが)。
5. 良い医者になってください。

このように、研修医のうちにしか教えられないことというのがあるので、研修医には精神科にも遊びに来て欲しいのだが、なかなか実現しない。これはPR活動が下手、というか、まったくやらない精神科医長が悪いのだ、きっと……。

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