2016年3月11日

治療終了することができた摂食障害

摂食障害の治療は非常に難しいと先輩医師に言われたことがある。これまで自分自身で摂食障害という診断をつけて治療を開始したケースというのは少なく、引き継いだ患者のほうが多い。そんな中で、長く摂食障害に苦しんできた若い女性を引き継いで、その後3年の治療で概ね改善したという嬉しい経験がある。

この人は過食嘔吐型で、「改善への第一歩になったのは、あのやりとりかなぁ」と思い当たることがある。当時、内科医向けの摂食障害の本を通読し終えたばかりで、その中に、
「摂食障害の人は、体は疲れきって悲鳴をあげているのに、心が体を叱咤して鞭打っているようなところがある」
というようなことが書いてあった。

その女性の次の診察の時に話を聞いていて、そういう目でみれば確かに「心が体に厳しすぎる」というような印象を持った。そこで、
「ちょっと自分の体に厳しすぎやしませんかねぇ。ご自分の体からの悲鳴に、もう少し耳を傾けてあげても良いような気がしますよ」
そんなふうに言ってから、しばらくその話題で語り合った。

診察が終わって退室する時、いつもは「ありがとうございました」「お大事に」とやり取りするだけなのだが、その時には彼女から、
「なんだかスッキリしました。すごく楽になったというか。もう少し自分の体をいたわってみます」
そんな言葉が出た。

それから少しずつではあるが、「この2週間では7回吐きました」というのが6回になり、5回になり……と、嘔吐の報告は減っていき、彼女も嬉しそうだったし誇らしそうでもあった。ただし、こちらも浮かれて一緒に喜ぶということはしなかった。というのも、彼女にとって「嘔吐」は心の不調を示すサインの一つに過ぎないかもしれず、「嘔吐は減った、そのかわりリスカが増えた」というのでは決して改善とは言えないからだ。

治療者として本当に嬉しかったのは、彼女の、
「吐いた自分を責めなくなりました」
という一言だった。そうした心の余裕や、自分自身に対する優しさといったものは、こちらも言葉と態度で全面的に支持した。こうして彼女はとんとん拍子に良くなった……、と言いたいところだが、それから治療の終了までには1年くらい要した。

最終的に彼女は、
「飲んでいる薬(抗うつ薬)をやめていきたい」
と希望するようになった。そして最後の診察で、
「今でもたまには吐くし、これからも時には吐くかもしれないけれど。でも大丈夫。そんな気がします」
そう言う彼女の少しだけ自信を取り戻したような顔を見ながら、俺はカルテに「終診」と書き込んだ。

えっ!?
まだ吐いているのに!?
これからも吐くかもしれないと言っているのに!?
それで改善したと言えるの!?
治療の終了で良いの!?

そう疑問を抱く人もいるかもしれないが、これはこれで良いのだと思う。

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