2016年3月4日

精神科医とは、患者の心の中の炭酸水を扱うような仕事である

精神科の普通の外来というものは、患者の心の中で泡立っている炭酸水に、毎回の診察で少しずつ真水を注いでいくようなものだ。そうするうちに炭酸水が真水に近づけば治療成功である。

患者が良くなったのは、精神科医が粘り強く真水を注いだ結果かもしれないが、もしかすると単に時間が経つにつれて炭酸が抜けただけなのかもしれない。精神科に悩みを持ち込んでくる人たちの多くにとって、「時間」という薬は遅効性ではあるが、これほど効果のある薬もない。

ただし、蓋を開けなければ炭酸は抜けていかない。もちろん真水も注げない。言い方を変えれば、蓋さえ開けられれば、真水なんて注がなくとも時間とともに炭酸は抜けていくのだ。この「蓋を開ける」というのがどういう形をとるか、それは医師と患者と状況次第だろうが、とにかくまずは蓋を開けること、開けるよう努力してみることだ。

これは簡単なようで難しいが、かといって特別なことを学んだり大げさなことをしてみせたりする必要はない。例え話の連続になるが、炭酸の入った容器を開ける方法は、ペットボトルのようにフタをひねる、ビール瓶ように栓抜きを使う、ラムネのように瓶にビー玉を押しこむなど、挙げていけば発想はたくさんある。いずれもシンプルだ。こういう発想を自分なりに臨床に置き換えてみて、トライ&エラーしていくしかない。人それぞれであろうし、あえて具体例は書かない。

うん、実に不親切な結論。

余談ではあるが、開けた瞬間に炭酸が吹き出すということもある。また、時には敢えて容器を振りに振って、炭酸の勢いでフタを飛ばすなんてこともないでもない。

2 件のコメント:

  1. 先生、はじめまして。
    Twitterやこちらのブログを楽しみに拝読している者です。
    私は地域で暮らしている精神症状がみられる方々の支援(主に受診に繋げる)をしております。できることは多くはありませんが、支援をしていく中でいつも、何をゴールとするのかで迷いが生じます。
    (例えばですが、幻覚がありながらも自宅で暮らせているので良しとするか、悪化して自傷他害に及ばないよう本人が望まなくても受診への説得を続けるのか…など)。
    ケースバイケースの事例ばかりなので、色んなことを一概には言えないですが、根底に一つ何か信じているものがあればいいのに…といつも自分の不甲斐なさを感じています。
    これからも先生の書かれる内容を楽しみにしています。

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    1. >秋さん
      ありがとうございます。
      ケースバイケースというのは、すごく都合の良い言葉だと考えています。そして同時に、すごく大切な言葉だとも思います。
      要は心構えで、逃げの言い訳としてケースバイケースを用いるか、攻めの理由としてケースバイケースと言うか、の違いなのでしょう。
      根底の根底、一番根底は、俺も秋さんも同じはずです。

      「その人のために」

      あとは、それこそケースバイケース。でも根底を忘れずにいれば、悪いほうには行かないか、行っても修正がきくものだと思います。

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