2016年6月24日

精神科診療における言葉の使い方

精神科の患者に新しく薬を出したら、
「薬の飲み心地を尋ねるのが良い」
というのが中井久夫先生の本に出てくる。これをそのまま自分の日常診療で、
「薬の飲み心地はどうでした?」
と尋ねて上手くいくこともあるだろうが、人によっては聞き取りにくかったり、意味が通じなかったりする。だから、単純に「飲んだ感じはどうでした?」と尋ねるようにしている。

自分があまり使い慣れない言葉、その地域で聞きなれない言葉は、あまり診療に用いないほうが良い。「飲み心地」というシャレた言葉は、俺にとっては裾のダブついたズボンみたいで「はき心地」が良くない。

「憂うつ」という単語は一般的だと思われるかもしれないが、案外にそうでもない。「憂うつ」を表す土地の方言が日常的に使われているせいか、患者に「憂うつな感じがありますか?」と尋ねてすんなり通じることのほうが少ない。「憂うつってなんですか?」と聞き返されたことさえある。これを方言を用いて問えば、相手の理解は早い。

通常、教科書というのは標準語で書いてあり、標準的な単語で説明してある。これをそのまま診療に当てはめようとしても通用しないのが当然で、地域の方言、言い回し、イントネーションといったことを意識して、「自分の口から発する言葉を調整する」ことが大切だ。

たとえば、もし自分が今、東北の病院に月1回の出張診療に行くとする。まず間違いなく、最初はぎこちない診療しかできないだろう。その逆もそうで、東北の名医が時どきこちらに来ても、きっと最初は「腕が落ちた」ように感じられるに違いない。

ただし、サリヴァン先生も中井先生も、精神療法とは、
「言葉の意味そのものではなく、声のトーンや抑揚で治療する」
と言っている。もしかすると、凄い名医はたとえ方言が違っていても、いやそれどころか、異なる言語を話す人を相手にしても、良い治療ができるのかもしれない。そんな名医になれない凡医の心得は、「できることからコツコツと」である。

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