2016年8月2日

前立腺癌に怯えた3ヶ月 『「死の医学」への序章』

実は今年(平成28年)2月に受けた職場健診でPSA(前立腺特異抗体)という検査値が4.4だった(単位は省略)。基準値は4未満である。専門外なので、焦ってネットやら教科書やらで調べたところ、これが10以上だと前立腺癌の確立が高いとのこと。4から10はグレーゾーンと言われている。4.4は決して高くはない。

これがもし、患者や友人や家族から「PSAが4.4だったが、これってどうなの?」と相談されたのなら、「グレーゾーンではあるが、たった0.4を超えただけだから心配しすぎないように」とアドバイスするだろう。ところが自分のこととなると、そんなお気楽にはなれない。客観的にも冷静にもなれない。なんとも勝手なものである。

研修医時代にお世話になった泌尿器のベテラン先生に相談すると、その日のうちに診察してもらえることになった。そういえば、今年の年賀状で、泌尿器科医になった同級生に「まだまだ泌尿器科の世話にはならずに健在だよ~」なんてお気楽なことを書いたなぁ。そんなことを思い出しつつ診察室へ。そして、医学生時代から絶対に受けたくない検査の一つだった直腸診を初体験することになった。

……。

どんな感じだったかは省略して、結果だけ言えば、
「癌っぽくはない。むしろ慢性前立腺炎のような感じ」
ということだった。今後の方針として、3ヶ月後にもう一回PSAを測って、数値が上がっていれば造影MRI、そして前立腺生検まで検討しようとなった。

それからの3ヶ月。癌かもしれないという不安は決して大きくはなかった。ただし、日常生活の中で通奏低音のごとく、薄らと、しかし確実に漂っていた。夜中にふと目が覚めて、薄闇の中で妻や二人の娘を見ていると、

「なにがなんでも彼女らを守り通さなければならない。でも、もしものことがあったらどうしよう……。どうにかなるのだろうか……。前立腺癌は比較的予後が良いと言われているから……、いや、楽観してはいけない……。いざという時には、苦しむ姿は見せたくない、キツくて家族に八つ当たりするのもイヤだ。とはいえ、一人きりも心細い……」

なんてことをつらつらと考えて、一人センチメンタル状態に陥ったりしていた。

そして、とうとう運命の3ヶ月後。

PSAは1.6に下がっていた。その他の項目も一切問題なし。冷静になって思い出してみると、確かに教科書に載っている慢性前立腺炎の症状があったような気もする。しかし、いざ我が身となると、なかなかきちんとは考えきれないものだなとしみじみ感じた。


本書は、国立千葉病院の神経科医長であった精神科医・西川喜作が前立腺がんのため世を去るまでの2年7ヶ月を、ノンフィクション作家の柳田邦夫が追いかけた作品。

上記のような経験をしていたので、本書を読み始めて「前立腺癌」という文字を見るたびに胸がドキッとした。職業も同じ精神科医である(医師としての格は大きく違うけれど)し、西川先生の闘病が決して他人事とは思えなかった。また、今後の自分の進路を考える上で、ターミナルケアやサイコオンコロジーについても造詣を深めたいと思っているところだったので、あれこれと考えながら読み進んだ。

医師・夫・父としての今の自分にとって、非常に良い本であった。

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