2016年10月24日

認知症の専門病棟を舞台に、老いることの哀しさ、切なさ、そして滑稽さを描くルポ 『解放老人』


認知症専門病棟を長期にわたって取材したルポ。描かれている内容は、認知症の人を入院させている精神科病棟ではよく見られる光景だが、あまり縁のない人にとっては少し衝撃的な描写もあるかもしれない。

人はみな歳をとる。

生まれたばかりの赤ん坊はみな無力だ。成長するにつれて、身体的な強さ弱さ、勉強の出来不出来など差がついてくる。大人になれば、社会的地位、経済的な立場といったものがピンからキリまで幅広くなる。ところが、高齢者になると、それまでについた差が少しずつ埋まってくる。極端なケースだと、裕福な家庭に育ったインテリが早々にボケてしまい、貧しい家庭に生まれて勉強もできなかった人のほうがシッカリしているという逆転現象さえ起こる。

「老い」はイヤなものだと思われがちだが、ある人にとっては残酷な「老い」も、別の人にとっては救いや癒しになることがある。老いにまつわることの中でも、特に恐れられている「認知症」だが、決して悪いことばかりではない。それは終末期に携わる多くの医師が語ることである。

たとえば、認知症が進めば、暑い寒いの感覚がなくなり、空腹感が薄れ、自分からは食べようとしなくなる。周りは心配するが、生物として考えれば、「暑くも寒くもなく、腹も減らない」というのは幸せではなかろうか。そして、認知症とは、こういう苦しくない最期に向けた準備なのではないかと思えるときがある。

ただし、あくまでも「決して悪いことばかりではない」のであって、良いことばかりなわけでもない。

独語する男性、自分は家にいると思っている女性、ファンタジー老女、最近のことは覚えられないのに戦争の記憶に苦しむ男性など、身近で見た著者だからこそ描ける、老いることの哀しさ、切なさ、そして滑稽さ。良い作品だったので、ぜひ多くの人に読んでみて欲しい。

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