2016年11月4日

おもしろくて切ない介護の記録 『認知の母にキッスされ』

出張先の病院に通う認知症の高齢女性の診察には、いつも次男さんがついてきていた。彼女の認知症はかなり進んでいて、次男さんのことを「トシちゃん」と呼ぶが、トシちゃんは実は長男の名前である。彼女と古い付き合いの看護師が、
「トシぼうじゃないよ! ケンちゃんよ!!」
と教えてあげても、彼女はヘラヘラとして、
「ケンちゃーん? それ誰だっけー?」
そう言ってケンさんの顔を見る。そして、ケンさんに向かって、
「いつもお世話になっています」
と頭を下げるのだった。そんな彼女を見ても、ケンさんは怒ることも落胆することもなく、ただただニコニコしていた。

彼女とケンさんは二人暮らしで、家での世話はすべてケンさんがやっていた。ケンさんのことが誰か分からないほど認知症が進んでいるのに、ケンさんと一緒に住んでいて不安感はなさそうだし、ケンさんの世話に対してもまったく抵抗しないのは不思議だった。本当に見知らぬ人であれば、家を追い出したり、介護に抵抗したりするのではなかろうか。きっと、「その人が誰か」という知識・知能の面では分からなくなっていても、感情の部分での「安心感」が残っているのだろう。


本書を読んで、そんな二人のことを思い出した。

ねじめ正一と認知症の母の記録で、おかしかったり、切なかったり。読みながら、どうしても精神科医としての視点が入るので、「これは、いったいどのタイプの認知症なのだろう?」と疑問に思った。レビー小体型のような気もするし、前頭側頭型のようにも感じられるし……。作家が作品として書いたものだから、多少の脚色もあるだろうし……、などと、あれこれ考えてしまう。

今年で65歳になった母はまだまだ元気だが、ねじめ正一と同じ長男として、なんだか他人事とは思えない内容だった。

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