2017年2月17日

「うつの8割に薬は無意味」というタイトルは煽り気味だし、文章表現にトゲを感じる部分も多く反感を招きそうだが、書いてあることはいたってまとも 『うつの8割に薬は無意味』


タイトルがいかにも煽りという感じだが、序章をきちんと読めば、タイトルの意味が分かる。それを簡単に説明しよう。

治療効果を判定する指標にNNTというものがある。「Number needed to treat」の略で、「その治療を受けた何人に一人が治療効果を得られるか」というものだ。だから「NNTが1」だと全員が治療効果を得られ、「NNTが10」だと10人に1人ということだ。

さて、うつ病に対する抗うつ薬はどうかといと、ある論文で3-8だったとのこと。この中間をとって5とすると、5人に1人が治療効果を得られる、つまり20%だ。だから、タイトルのように、「残り8割には無意味」ということになる。

本書の著者・井原先生の『激励禁忌神話の終焉』は素晴らしい名著で文句なしの星5つだが、こちらは星1つ減じたい。内容はかなりまともなのだが、文章には精神科医に対する刺々しくて皮肉っぽい部分が多々あり、同業者の反発を敢えて煽っているのではないかと思ったほどだ。一応、一般向けの新書ではあるが、精神科医が読むということはかなり意識されているだろう。

「治しながら働く、働きながら治す」、「診断書は戦略をもって記せ」などは、「休職診断書」を乱発するような医師には啓蒙的である。また、患者にとって要注意な精神科医として、
  • 初診で薬3種類。
  • 副作用の説明がない。
  • 不調を訴えるたび薬が増量・変更。
  • 治療についての疑問で機嫌が悪化。
  • 処方のみで、助言・指導・提案なし。
  • 患者の生活を知ろうとしない。
と具体的に書いてあるのは、患者や家族にとっては大いに参考になるだろう。

本書は決して精神科医を批判・非難することに徹している本ではない。どちらかというと、「薬を飲めば治る」と安易に考えている人や「薬を飲んだのに治らないじゃないか!」と憤っている人にとってこそ、耳に痛い話が多いかもしれない。というのも、「薬物療法以上に患者本人の自助努力が大切だ」と強調してあるからだ。もちろん、患者の自助努力を、どう促し、引き出し、継続させるかという部分は精神科医として大切な仕事になるが、それは精神科医だけでなく家族の役割でもあると書いてある。

タイトルは扇情的だが、内容はバランスがとれているように思う。ただし、繰り返しになるが、敢えてなのか、うっかり筆が走り過ぎたのか、トゲトゲしい部分があるので星4つというところ。

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