2017年3月10日

精神科の診察室における「言葉の波長合わせ」について

たとえば、統合失調症の患者が外来で、「霊感的なものが強まった」とか「神の声が聞こえる」とか言ったとする。同席した家族はウンザリ顔で、
「お前がおかしいんだよ! 何も聞こえないんだ! ありえないこと、変なことばかり言って……」
と声を荒げたり苦笑したりする。患者と家族は、いがみ合うような雰囲気になりかける。そこで、診察医として、
「聴こえるのは本当だと思いますよ。ただ、それは僕にも聞こえませんけど。でも、嘘を言われているわわけではないはずです」
と間に入ると、患者は、
「先生だけですよ、分かってくれるのは……」
と言って、時に涙する人もいる。

このままでは治療が進まないので、
「ところで、その霊感的なものが強すぎると、生活がしにくくないですか?」
そう尋ねて、
「まぁ……、そうですねぇ」
と返ってくるようなら、
「その霊感的なものを薬で少し弱めるくらいがちょうど良いかもしれませんよ」
そう声かけすると、わりと納得してもらえる。

「霊感的なものが強いほうが良い」と答えられる場合もある。こういう時は、
「でも、家族に分かってもらえずに、こんな感じで家族とピリピリした感じになってしまうのは辛くないですか?」
ちょっとだけ家族に手伝ってもらうような気持ちで、患者自身と家族に「その人の生きづらさ」みたいなものに目を向けてもらう。

さてここで、患者とのやり取りにおける「言葉の波長合わせ」についてである。患者が「霊感的なもの」と表現した時には、こちらも「霊感的なもの」という言葉を使う。患者が「神の声」と言うなら、こちらも「神の声」、「四次元パワー」なら「四次元パワー」。すごく些細なことだが、面と向かってやり取りする時のこういう「言葉の波長合わせ」は大切である。

この「言葉の波長合わせ」だが、子育てではみんな自然とやっていることである。
「パパ、お星さまがキレイだよ!」
と言われたら、
「ほんとだ、お星さまいっぱいだねぇ」
と返すだろう。普段は「お星さま」なんて言葉は使わないのに、自然と「お星さま」という言葉が出る。まさか「おお、満天の星だね」とは言わないはずだ。
「パパ、お月さまだよ!」
と指さす子には、
「うん、きれいなお月さまだねぇ」
と答え、それから少し新しい言葉を教えようと思ったら、
「ああいう形のお月さまを、三日月、というんだよ」
こんな感じになる。

診察室での「言葉の波長合わせ」とは決して大それたことではなく、上記のような「日常にありふれていること」を、幻覚や妄想や自殺願望など「日常であまり接しないこと」に対してやっているだけなのである。

2 件のコメント:

  1. おお、満点の星田ね、の下りに声だして笑ってしまいました笑
    地方の開業医してるといつも勉強になります。ずっと拝見してたのですが、iPhoneからだとバグで送信できず、最近は読み逃げばかりでしたが携帯かえてコメントできるようになりました!よろしくお願いいたします。遅くなりましたが、3女誕生おめでとうございます(^-^)

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    1. >遥さん
      笑っていただけてうれしいです(笑)
      iPhoneだとバグが出るとは知りませんでした……。
      三女は寝つくまでの泣きが激しい時期で、なかなか大変です(^_^;)

      今後もよろしくお願いします!

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