2018年3月16日

心理治療にまつわる名言がいっぱい 『魂にメスはいらない ユング心理学講義』


心理学者としても、元文化庁長官としても有名な河合隼雄と、詩人・谷川俊太郎による対談を本にしたもの。

いくつか引用していこう。
「相手をどこか好きにならなかったらみるな」とよく言われました。(中略)どんな人でも、どこか好きになったらいいけど、どこも好きでない限りはみてはならない。
幸いにして、俺自身はどんな人でも「どこか好きになる」たちなので、そういう点では性格にあった仕事に就けているのかもしれない。

不登校の子について。
学校へ行ってもいいし、行かなくてもいいと。ただし、一般の社会は学校に行くほうが普通だと思っているということを忘れてはならないと言う。それが僕の態度ですね。(中略)
(学校に行くのに)三年かかったほうが失敗で三日で治ったほうが成功だとは僕は思っていないわけです。三年かかった子はそういう人生を歩み、こっちはそういう人生の歩みのつきあいをしただけだとぼくは思っているんです。
河合隼雄の「善悪という言葉はほとんど使わず、損得という表現をする」という意見に対して、谷川俊太郎が「『生きているほうが得だ』とおっしゃるわけですか?」と尋ねる。
「得じゃないかなあ」と言ってみるんですがね。(中略)「あんたが生きていてくれているほうがぼくはうれしい」と。それは事実でしょう。そういう自分の心の中にあるものを、なんとかできる限り的確にうそのないように伝えるように努力します。(中略)やっぱり死ぬほうが本当かもしれんとおもっていることもあるんだから、そういうのも全部言います。(中略)
ぼくの本当の気持ちを言おうとして「どう言ったらええやろ」と水を向けると、それはこうでしょうと相手が代弁してくれるときもあります。だから、完全に二人で仕事をしている感じです。治療というのは二人でつくる傑作ですね。
これは自分の臨床でも活かせそうな方法で、胸に留めておきたい。

また、「依存」について、とても素晴らしい指摘をしている。
必要に応じてどの程度ちゃんと依存できるかというのは、むしろ独立心のあらわれみたいに考えています。特に若い人たちがよく失敗するのは、独立しようと思って依存心をなくしすぎるんですね。ぼくは「あんたのは独立と言わずに孤立と言うんや」とよくひやかしているんだけどね。
心理治療に携わっている者にとっては、「分かる分かる(笑)」というような話もある。
(患者の相談に対して)ああしろこうしろなんて言えないんです。それはわれわれには自明のことですから、何も言わないということに対してすごく安定感を持っているんです。普通の人は不安で、つい何か言いたくなってくるんですが、ぼくらは本当に平気で「ああ、そうですか」「はあ」とだけ言って、最後に「また来週」となるわけです(笑) これができるようになるには、やっぱり相当鍛えられないとね。

最後に、治療者の役割について。
うまくいっている場合は、本当にぼくが何もしなくとも、先生や親や友達やみんなの力がうまく作用しているわけです。つまり、その子を学校に連れていくようにしたのは友達であるし、友達をアレンジしたのは先生であるし、そのときに話し合ったのはお母さんであるというように、みんなの力がつながっていく。それでぼくはよく「分析家は功名を他に譲らねばならない」と言うんです。
実際、みんなそれぞれ自分のおかげでその子がよくなったと思っているんですね。それで結構なわけで、「よかったですね」と言うだけがぼくの役割なんです。
これはとても大切な姿勢で、治療者は常にこのことを意識しておかないといけない。「治療がうまくいった」のを「自分の手柄だ」と思うのは、非常に傲慢だということ。そして、河合隼雄はこういうオチをもってくる。
だから、せめて金ぐらいもらわんとたまらない(笑)
最後のほうは臨床から離れて文化論みたいなやり取りになり読み疲れしてしまったが、全体的には名言、示唆に富む良書であった。

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