「知らない人が忍び込んできて悪さをする」
そんなことを訴える患者が時どきいる。
「冷蔵庫の野菜を新鮮なものに入れ替えられる」
「買い置きのゴミ袋を増やしてあった」
「床にこっそりホコリを置いて行く」
はた目には荒唐無稽に見えることを熱弁する姿が、おかしくも切ない。
そういった患者が薬を飲むとどうなるか。
「家の中に人がいるというのは、私の妄想だったみたいです」
となることはあまりない。それよりは、
「些細なことだし、もう気にしないことにしました」
と気持ちが緩やかになったり、
「最近は忍び込まれなくなりました」
そんな解釈をしてみたり、聞いていて微笑ましくなるようなことが多い。
そうしてしばらくすると、再び、
「先生、また家の中に人が……」
と言いだす。詳しく聴いてみると、案の定、薬をやめている。こういうことの繰り返しが精神科ではしばしば見られる。
そんな人たちと接することは、滑稽なようで切なくて、深刻なのに微笑ましい。彼らが上手くバランスをとる手伝いをすることは、医療者としてやり甲斐のある仕事である。
精神科医・春日武彦の本。一般の人が読んでも面白いと思う。
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