2018年6月18日

サイコパスの不気味さをまざまざと見せつけられるノンフィクション「小説」 『復讐するは我にあり』


サイコパスの不気味さをまざまざと見せつけられるような本だった。

昭和38年、37歳だった西口彰という男が5人を殺害した。この西口彰事件を題材にしたものである。途中まで完全なノンフィクションだと思い込んでいたので、出てくる人たちの内面描写が多いのに驚きつつ首をひねった。

ノンフィクションなのに、人の気持ちをここまで書けるものかなぁ?

それでちょっと気になって調べたら「ノンフィクション小説」、つまりあくまでも小説ということで納得した。とはいえ、事件をかなり綿密に取材したうえでの内容なので、ほぼノンフィクションのようなものである。

本書での殺人犯は西口彰ではなく榎津巌(えのきづいわお)となっている。この榎津が逮捕後に笑いながら語る内容が怖い。
いちばん印象に残っているのは「あさの」のおかみで、ぜんぜん抵抗しようとせず、死ぬまで俺の顔を「先生、冗談でしょ」というように見つめていたなぁ。
詐欺というのは骨折り損のくたびれ儲けということ。殺しはたいした手間もかからず、確実に金になるからね。
こういうことは著者の佐木隆三が想像で書けるものではない。佐木隆三自身がサイコパスだったり、よほどサイコパスに精通していたりすれば、もしかしたらこんなことも書けるかもしれないが、おそらくそうではない。西口彰は、実際に笑いながらこう言ったのだろう。こういう人とは、絶対お近づきになってはいけないのだが、サイコパスは一見すると魅力的な人が多いらしいから恐ろしい。

彼が犯した殺人事件はともかくとして、詐欺事件だけに目を向ければ、その手口の鮮やかさ、堂々としたなりすましかたには、ある種のエンタテイメント性を感じてしまう。騙された被害者がいるので、決して「面白い」とは言えないが、映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』の日本版小説を読んでいるような気持ちにはなる。

直木賞受賞も頷ける一冊であった。

※本文中に「西口彰がサイコパスである」ということはまったく書かれておらず、俺の個人的見解である。

1 件のコメント:

  1. 若い頃読み、映画も観ました。
    原作に劣らぬ出来でした。
    佐木隆三さん自身も出演と聞いてたから注意してたら、「な~るほど」という役柄でした。

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