2018年11月1日

「車いすの芸人」ホーキング青山がサクサク深く切り込み語る 『考える障害者』

障害者であるお笑い芸人ホーキング青山のことは、彼がテレビに出始めたころから知っている。そのころ俺は20歳前後。当時、彼が盲人用の歩道タイルを例にとって、
「あるバリアフリーが、別の障害者のバリアになりうる」
と言っていたのが印象的だった。あのタイルは、車イスの人間にとって邪魔になるのだ、と。だからどうすれば良い、という提案までしていたかは記憶にないが、彼の切り口の鋭さと、特異な容姿と「ホーキング青山」というふざけた芸名が印象的で、ずっと忘れられない存在となっていた。

それから10年以上たち、『セックスボランティア』という本を読んだのがキッカケだったと思うが、Amazonでホーキング青山の本を見つけた。一冊読んでみると非常に面白かったので、彼の本はほとんど読んでしまった。

本書は2017年12月に発行されており、乙武スキャンダル、やまゆり園事件、バニラ・エア騒動など、記憶に新しい話題が並ぶ。以下に目次を一部抜粋して紹介する。
1 「タブー」を考える
障害者は気を遣われる
障害と障がいと障碍
差別用語は使う人の問題
税金の問題

2 「タテマエ」を考える
個性で片づけるな
こんな個性は嫌だ
治せるものなら治したい
多様性のために生きているのではない
ボランティアが障害者を弱くする

3 「社会進出」を考える
セックスボランティア
『バリバラ』への違和感
パラリンピック

4 「美談」を考える
「24時間テレビ」のこと
聖人君子のイメージ
喜ぶ人がいる限り変わらない
感動ポルノ批判は容易だが
「感動するな」もおかしい
感動するなら評価をくれ

5 「乙武氏」を考える
日本一有名な障害者
よだれは見たくない
消臭されたウンコ
不倫騒動をどう見るか

6 「やまゆり園事件」を考える
介護者は天使ではない
生きていい理由

7 「本音」を考える
同じ人間として扱ってほしい
バニラ・エア騒動を考える
親切な人が壁になる
適切な線引き
お笑い芸人なので、真面目な話のあいだにちょいちょいネタを入れてくる。それが思わずプッと吹き出すくらい面白い。たとえば「障害者、障がい者、障碍者」について。「障」という字だって良い字ではないのだから、「害」を排除したら「障」が気になりだすだろうと指摘し、
「『障』は『翔』にしたらどうでしょうか。羽ばたくみたいで素敵ですよ。『害』も『碍』も論外です。ここは『涯』でどうですか。『はて』という意味だから、『はてまで翔ぶ』というイメージになります。ね? 『翔涯者』。素敵でしょう?」
これを不謹慎だと怒るようなら、本書は読まないほうが良い。もっとお行儀が良くて「正しい」本のほうを勧める。

青山氏は介護事業所の経営もしており、そこで感じたことはさすがである。
意外にも、介護者は「障害者は高齢者のために命がけで頑張る!」などと崇高な思いを表にあまり出さない人の方が、仕事を吸収するのが早く、長続きしやすいということだった。前述した「仕事」として取り組むタイプである。いい意味でこの仕事を「仕事」の一種として割り切ってやっている、そういう人の方が自然体で仕事に向かい合うことができて、疲れないようなのだ。
熱血漢タイプは、一見理想的な人材に見える。しかし、これはなにも介護の世界ばかりではないと思うが、理想が高過ぎて現実とのギャップに耐えられなくなってしまう人が結構いるようなのだ。またこういう人は、自分なりの理想を時として他の従業員やときにはお客様にまで押し付けてしまい、嫌われてしまうケースも何人かいた。
対人援助職をやっていると、必ず出会う「熱血漢タイプ」。本人が燃え尽きるだけでなく、周囲にも延焼させるので要注意だ。本人にとっては、燃え尽きたことにも人生の意味を見い出す日が来るのかもしれないが、延焼させられたほうはたまらない。

やまゆり園事件については強く共感した。それは、大口病院事件の容疑者が逮捕されたときに感じたことと同じ類のものだった。
かなり頭が規格外の容疑者が言ったことを真に受けて、皆が障害者の「生きる意味」を論じだす。そのこと自体が、何だか大げさというかおかしいのだ。結局のところ、容疑者の術中にはまっているのではないか。
「お前が勝手に他人を殺していいわけないだろう。バカ野郎」
それでいいのではないか。
この他、青山氏が実際に体験した「街中での勘違いお手伝い」の話など、面白くて考えさせられるエピソードがたくさんあり、すぐに読み終える文章量のわりに中身が濃厚で、非常に良い読書時間になった。

今後もホーキング青山を応援する!! → ホーキング青山のツイッター

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