2019年10月29日

怖さはアップしたものの…… 『奇奇奇譚編集部 幽霊取材は命がけ』


第1作目に比べると、怖さはアップしたように感じる。しかし、全体的には文章がブツ切りになっているところが多々あり、読書のリズムを削いでしまっている。一例をあげると、
そう、これが彼の仕事のひとつなんだ。ぼくを。とことんまで。怖い目にあわせるのが。
この小説は主人公の一人称視点であるため、彼の思考をそのまま文字にしたとすればこうなるのかもしれない。しかし、「人の心の中身を文字で読むこと」と、「人の心の中身を描いた小説を読む」のとでは違うはずだ。そして、一般的に、読書する人は後者のつもりで本を読んでいるのではなかろうか。

このプツリ、プツリと途切れる文章で読むリズムが削がれてしまい、内容は面白いのに入り込むことができなくて残念だった。完結編である第3作目に期待する。

2019年10月24日

援助職を長く続けるために必要なこと『悲しみにおしつぶされないために 対人援助職のグリーフケア入門』


対人援助職に真面目に取り組んでいる人は、たいてい自分の神経をすり減らす経験をしている。どんなに周りからはのほほんとしているように見える人であっても、実際には多かれ少なかれ、精神的に疲弊したことがあるはずだ。

ある人はそれで援助職を辞するかもしれない。また、ある人は仕事を続けるものの、援助対象者とは極端に距離をとることで自らの精神衛生を保つという方法をとるかもしれない。いずれにしろ、援助される側としては好ましくない。

適切な援助を、長期にわたって安定して提供するためには、援助者が振り回されたり押しつぶされたりしてはいけない。そのためにどうすれば良いか。以下の引用を読んで、ハッとする人も多いのではなかろうか。
援助職に就いている人たちは、人のために働くのは得意ですが、自分のためのケアは不得意です。
援助職の専門家は、自分自身にはどういう問題・課題があり、自分がどういう生育歴をもっているか、そして自分のどういう問題が未解決になっているのかということを、ちゃんと知っておくことが必要 
自分の問題を全部解決してからでなければ援助者になってはいけない、というわけではありません。問題はあっていいのですけれども、自分にはどういう問題・課題があって、そのために自分は今どんな取り組みをしている……、ということをふまえて仕事をすればいい
 みなさんのいい仕事で、たくさんの人が笑顔を取り戻しますように。

2019年10月21日

仕事にも子育てにも活かせそうな「伝えかた」の本 『人を動かす伝え方 動きたくなる56の伝え方』


中谷彰宏の本は、シンプル、読みやすくて分かりやすい、そして「行動に移しやすい」。

本書も従来通りの良書。

「丁寧すぎると伝わらない。詳しすぎる道案内は、かえってわからなくなります」というのは、日々の診療でも感じることで、大いに同感。例として出されているのが、道案内のとき目印にローソンがある場合。案内は、

「ローソンの角を曲がる」

だけで良い。

「ファミマでは曲がっちゃダメ」

は言わない。ところが、親切な人ほど説明が丁寧になり、余計な情報(「ファミマ」)が入り込み、間違う原因になってしまう。

それから、本当に伝えようと思ったら、少し乱暴な言葉を用いるというのも頷けた。
「逃げてください」ではなく、「逃げろ」。
さらに言えば、逃げている人が「逃げろ」と言うのが一番伝わる。
震災や飛行機事故などの緊急事態では「逃げろ」「荷物を持つな」という命令形が必要かつ効果的であることは、もっと周知していきたい。

また、「伝えるためには、言いきること」。具体例として、「七人の侍」は強そうだが、「七、八人の侍」になると弱そう、という面白い例が出してあり、こういうところがさすがだなぁと感心する。

本の表紙にあるように、「早くしなさい」より「タッタカ・タッタカ」といったオノマトペを使うほうが効果的というのは、仕事だけでなく子育てでも活きそうだ。というか、本書全体が子育てにも活かせそうな内容盛りだくさんであった。

2019年10月18日

涙ポロポロこぼれるエッセイ 『病院というヘンテコな場所が教えてくれたコト。』


現役看護師によるイラストエッセイで、あまり期待せずに読み始めた。ところが、冒頭からグイグイと引き込まれ、最後にはポロポロと泣いてしまった。

妻とは、彼女が一年目看護師のときに出会ったので、当時の妻がどういうことで悩み、どういう辛さを体験していたのかということも、少しだけ知ることができた気がする。

オススメ良書。

2019年10月17日

精神科診療にも応用できそうな良書 『好かれる人が無意識にしている文章の書き方』


ブログやTwitterやFacebook、メールや手紙などで、書いた文章に好感を持ってもらうためにはどうしたら良いかが述べられている。

中谷彰宏の自己啓発本は、経済学部生として就職活動をしていた時期に何冊か読んだ。特徴は「簡潔明瞭で、実行へのハードルが低い」。そのせいか、「中谷彰宏を読んでいる」と言うと「フン」を鼻で笑われることもあった。低く評価する人がいるのは、中谷彰宏の本が教えてくれることがらの手軽さゆえかもしれない。しかし、読んでも実行されない自己啓発の価値は少なかろう。

本書の内容は精神科診療にも応用できそうで、とてもためになった。

2019年10月15日

マニアではない動物好きに! 『LIFE<ライフ> 人間が知らない生き方』


5ページのマンガと、約5ページの簡潔で面白い解説で構成されている。マンガは絵が親しみやすくて面白く、解説も生き物雑学として非常に興味深かった。

出てくる動物は最初から順に、ペンギン、ライオン、パンダ、ネコ、キリン、ミツバチ、ハダカデバネズミ、ラッコ、カピバラ、ゾウ、リス、イルカ、ウシ、タコ、ラーテル、ナマケモノ、ゴリラ、ダンゴムシ、イヌ、カンガルーと多岐にわたっている。

良書として推薦。

ただし、すごく動物が好きで知識がある人からすると、「記述が大雑把すぎて不正確」と感じる部分があるかもしれない。

2019年10月11日

怪談の本2冊 『稲川淳二のこの世で一番怖い話』『風怪 あなたの隣に潜む街の怪談』


稲川淳二の喋りのままを文章にしてある。これを情感こめて音読して妻に聞かせたが……、あの独特の怖さが出ない。なんでかなぁ、なんでかなぁ、って、考えたんだ。稲川淳二って、実はそんなに滑舌は良くない、なにを言っているか聞き取れないこともあるくらいだ。だから聴くほうは自然と、そう、自然と耳を澄ます、身を乗り出す、集中しなきゃなんないでしょ。それが怖さを引き立てるんだ。良い具合に。で、この本、リビングで読んでたんだけど、ふ、と背中から視線感じて、やだなぁ、いるなぁ、やだなぁって。


怪談集で、まったくの予想外な結末というのは少なく、いわゆる定番という感じだが、いずれもそれなりに「怪」を愉しむことができた。こういう本を読むと、自分の体験したいくつかの怪異を思い出して背筋が寒くなるが、同時に最愛の祖父との思い出がたくさん甦ってきて暖かい気持ちにもなる。この矛盾した反応が我ながら面白いからこそ、年に何冊かは怪談を読むのかもしれない。

2019年10月8日

ネットワーク・サイエンスに関する本としても自己啓発本としても良書 『ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした「成功の普遍的法則」』


ネットワーク研究の第一人者が、「成功」について科学的に研究したことをさまざまなエピソードを交えて分かりやすく解説する文系サイエンス本。

「成功で重要なのはあなたではない。社会なのだ」
「パフォーマンスが成功を促す。パフォーマンスが測定できない時には、ネットワークが成功を促す」
「パフォーマンスには上限があるが、成功には上限がない」

こうした言葉を用いながら、成功とは何か、そして、人が「成功」するのに大切な要素、知っておくと有用なことが語られる。

ネットワーク・サイエンスに関する本として充分に面白いが、成功したい人には自己啓発本としても良書だろう。

2019年10月7日

「恨みの中毒症状」の治療なしに、被害者は減らせない 『ストーカー病 歪んだ妄想の暴走は止まらない』


ストーカー、特に異性関係をベースにしたストーカーについてがメイン。実際には、同性による恋愛感情ではなく恨みによるストーカー行為もある(俺も被害を受けた)ので、ちょっと物足りなさは感じた。

全体を通じては興味深い部分が半分。著者の生い立ちや経歴、若手時代のエピソードは、「閑話休題」にしてはちょっと多すぎるかな。

ストーカーの特徴として記述されていた以下の文章には、個人的体験からは非常に同意できるものである。
心に痛みを抱えた人は、その心の痛みを軽減するために、他人の不幸を喜んだり、不幸そのものを引き起こそうとする非道徳・非建設的な行動をとる場合があり、時には犯罪につながるケースもある
(ストーカーは)相手の心情の読み取りができない。と同時に、自分の感情の整理が非常に苦手

2019年10月3日

良い本だが、分量が多く、読み手を選ぶだろう 『あなたの飲酒をコントロールする 効果が実証された「100か0」ではないアプローチ』


アルコール使用障害(従来の依存と乱用をまとめたもの)の治療は、これまでの断酒一辺倒から「減酒」を選択肢に加えつつある。「つつある」と書いたのは、まだ決して一般的ではないからで、むしろ「減酒なんかで治療ができるか」と思っている医療者のほうが大多数ではなかろうか。

本書は減酒のためのガイド本。
「どんな行動を選ぼうが、それを一つの実験だと考えよう」
「記録をとること自体が、多くの人たちを減酒へ向かわせる」
「もう一杯欲しいときは20分待ってみる」
など、減酒Tipsが散りばめられていた。

分量が多いので、決して誰もが気軽に読めるタイプの本ではない。