2018年6月29日

ちょっと古いが読む価値はある 『アルコール依存症に関する12章 自立へステップ・バイ・ステップ』


アルコール依存症に関して、わりに読みやすい新書。初版が1986年と、30年以上前なのでちょっと古めかしい部分もあるが、わりと良い本だと感じた。

中でも勉強になったことを以下に記しておく。

アルコール依存症の夫をもつ妻は、夫が断酒した直後の時期に心身の不調を訴えることがあるらしい。
妻にとって夫の断酒はうれしいことながら、長年の習慣を変えることは大変です。中には、夫の断酒後に身体的な不調や精神的不安定さを訴える例もあります。また、大半の妻たちは、夫の断酒開始当初は、生活の中で緊張感が増します。「飲んだくれていたときの方が楽だった」というわけです。
断酒開始当初の酒害者は、彼自身としてもイライラした精神状態にいます。その雰囲気の中で妻も緊張します。
依存症の人を支援するにあたって、今後この点は特に留意する。

2018年6月28日

暴力への正しい向き合いかた 『暴力を知らせる直感の力 悲劇を回避する15の知恵』


副題に「15の知恵」とついているが、いわゆるハウツー本ではない。本書では、暴力そのものについて、暴力をふるうタイプの人間について、そして、そういう人間や危険を見抜く方法や対策について詳述してある。

印象深かった部分を引用していく。

ネットでも話題になることの多い「サイコパス」は、現実に出会うと「魅力的な人」に見えることが多いらしい。この「魅力」について著者はこう語る。
魅力は、勘違いされやすいもう一つの能力である。魅力を能力と呼んだことに注意してほしい。魅力は、人が生まれながらに持っている性質ではないのである。ほとんどの場合、それは人が操る道具なのだ。(中略)魅力には動機がある。相手を魅了するということは、魅力によって相手になにかをさせたり、コントロールしたりすることにほかならない。(中略)「この人は魅力的だ」ではなく、意識してこう言ってみる。「この人はわたしを魅了しようとしている」と。
実に分かりやすい説明で、同じように「親切」についてもこう述べる。
親切と善良はイコールではないと、わたしたちは肝に銘じるべきである。
本書ではDVについても多くのページを割いてある。異論はあるかもしれないが、著者の主張には考えさせられるものがある。
殴られる子どもと同様、殴られる女性も、暴力がやんだときの圧倒的な安心感を経験する。その感情に中毒になる。
この意見に対して「あんたなんかになにが分かる!」と反発を感じる人もいるかもしれないが、著者自身、ひどいDV継父のもとで育ったサバイバーである。
被害者に束の間の平穏を与える。それができるのは、虐待者だけだ。虐待者だけが、被害者に幸福感をもたらすことができる。それは暴力と暴力のあいだにはさまれた一瞬の陶酔感にすぎないが、暴力の程度がひどくなればなるほど、大きく感じられる。
また、著者はテレビやインタビューでこんなことも言う。
「最初に殴られたとき、女性は犠牲者です。ですが二度目に殴られたとき、その女性は志願者です」
これはアメリカでも大いに反発を招くようで、「あなたには虐待の力学がわかっていない」「症候群を理解していない」という反響があるそうだ。これに対して、著者はこう語る。
選択ではないと反論する人には、では女性が最終的に家を離れたとしたら、それは選択ではないのかと訊ねたい。あるいはそれもなにかの症候群で、女性たちは望んでもいないのに家を出ていくのかと。家にとどまることは選択の一つなのだと、女性自身が気づくことが重要だ。そうでなければ、家を離れることも選択の一つだと、なかなか思えないからである。
さらに、女性が暴力に屈したまま家にとどまることが選択ではなく、どうにもならない力学や症候群だとすると、男のほうはどうなるのだろう?(中略)男の行動もまた症候群で、いたしかたのないものだというのだろうか? どんな人間の行動も、過去に原因を求めることができる。だが、それが行動の言い訳になるわけではない。虐待する男たちの責任は、必ず問わなければならない。
ただ、責められるべきなのは男だけではない。責任は双方にある。こどもがいる場合はとくにそうだ。両親とも、こどもをひどく傷つけている(暴力を振るうほうが振るわれるほうよりひどいが、ともに傷つけているのは間違いない)。
実際に大きく傷ついた著者だからこそ分かり、かつ言える言葉だろう。

ストーカーについてもたくさん書いてあり、その的を射た表現が心に残った。
話したくない相手に、十回話したくないと言ったとすれば、それは九回も余分に話しているのである。
ストーカーからの留守番電話へのメッセージを、三十回も無視していられたのに、三十一回目にはとうとうこたえてしまったとする。そうすると、そのこたえの内容がどんなものであれ、相手はあなたを電話口に出すのには、三十回メッセージを無視されることが必要なのだと解釈する。このタイプの男は、どんな接触も前進と受け取る。(中略)
女性がつき合いたくない理由を言うと、それがどんなことであれ、このタイプの男には挑戦目標になる。
400ページ近くある大作で、序盤はちょっとかったるいと感じる部分もあって飛ばし読みしかけたが、途中からは完全に引きこまれ読み耽ってしまった。身の回りの暴力に関心のある人には強くお勧めする一冊。

2018年6月27日

笑顔のような表情をするだけで気分は少し上向きになる 『その科学が成功を決める』

人は嬉しいから、あるいは楽しいから笑うのだろうか?

もちろんそうだ。

だがその逆もあるらしい。つまり、笑うから、いや、実際に笑わなくても、笑ったような顔を作ることで、嬉しさや楽しさが引き出されるということだ。

固有反射心理学という研究分野があり、そこでさまざまな実験がなされている。例えば、あるグループには歯で鉛筆くわえて唇につかないようにしてもらい、もう片方のグループには歯を使わず突き出した唇だけで鉛筆をくわえてもらう。こうすると、歯を使うグループは顔の下部分が笑顔に近くなり、唇だけだと不満げになる。ただこれだけで、本人の気分に差が出るというのだ。他にも様々な実験が行なわれており、結論として、気分が行為を左右するだけでなく、行為が気分を左右することは確かなようだ。

これは精神科医として診療にもの凄く有用な知識である。歯で鉛筆をくわえて笑顔のような顔をするだけで気分が少し明るくなるのなら、診察室には患者用の鉛筆を用意しておいて、それを口でくわえてもらいながら診察をするのも独創的で良いかもしれない。というのは半分冗談にしても、デイケアや作業療法、院内活動などで「笑顔体操」なるものを考案して実施するだけで、患者の気分が上向くかもしれない。実際にやるとしたら、患者が笑顔を押しつけられたと思わないよう、「アンチエイジングの顔面体操」といったネーミングが良いのかもしれない、というのは結構本気。


本書はそうしたことを考えるキッカケになる一冊。『その科学が成功を決める』という邦題は胡散臭さを感じさせるが、著者はハートフォードシャー大学の心理学教授であり、また本書の執筆にあたっては240以上の文献(心理学論文や『サイエンス』『ネイチャー』といった科学雑誌)を参考にしてあり、トンデモ本の類いではない。お勧めである。


<関連>
幸せを感じやすい人が成功する 『その科学が成功を決める』

2018年6月26日

分量が多すぎず、内容が高度すぎず、値段が高すぎず、三拍子そろったアルコール依存症の本 『おサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気』


治療については、「底つき」「突き放し」をするしかないという点で、ちょっと考えかたが古いかもしれないが、全体的には「いま現時点でアルコールの問題に悩まされている家族」が読むのに良い本だと思う。

分量が多すぎず、内容が高度すぎず、値段が高すぎず。

こういう三拍子がそろっている本はなかなかない。悩める人は、最初の一冊と思って読んでみてはどうだろうか。

2018年6月25日

病名になった人たちの生きざま 『アルツハイマーはなぜアルツハイマーになったのか 病名になった人々の物語』


人名のついた病名や用語は、いかにしてそのような病名を与えられたのか。1900年前後から現代までの医学史に触れながら、病名や用語となって残っている医師・研究者らの生涯を描いている。

各章で1つずつの病名・用語がとりあげられる。

シャルル・ボネ症候群
パーキンソン病
ゲージ・マトリックス
ブローカ野
ジャクソンてんかん
コルサコフ症候群
ジル・ド・ラ・トゥーレット症候群
アルツハイマー病
ブロードマンの脳地図
クレランボー症候群
カプグラ症候群
アスペルガー症候群

一般の人にもなじみ深い病名もあれば、医師でさえほとんど目にしないものもある。知らない病名・用語でも、語られているのは医師や研究者の人となりや生きざまなので、決してチンプンカンプンということにはならないだろう。ただ、翻訳がやや読みにくい(もしかすると原文が読みにくいのかもしれないが)ところがあったり、文章構成にちょっとしたクセがあったりするので、人によっては途中で放り出すかもしれない。そのわりに値段が高いので、買って読むのはリスキー。