家を出て行ったきりだった父さんが、一週間ぶりに帰ってきました。中学三年生の私の目から見ても怠け者だった母さんは、心を入れ替えたように良い母さんになりました。父さんからしても、きっと良い妻になったんだと思います。友だちにも家出した子は何人かいるけれど、たいていみんな中途半端。結局なにも変わらないままってことが多い。そう考えると、父さんの家出は成功したっていえるんだろうな。
ある夜、父さんは少し酔って帰って来ました。玄関で出迎えると、残り少ない髪の毛から風呂上りのような匂いがしました。私だって子どもじゃないんだから、それがどういうことかくらい分かります。酔った父さんは、私のあきれた様子にも気づかず、ちょっと偉そうな口ぶりで、
「これが、いわゆる政権交代ってやつだなぁ」
そう言いながら財布から五千円札を取り出して、私に渡しました。
「ほら、子ども手当て」
さらに父さんは、
「お母さんのエステ代とか、習い事とか、そういうのナシにしよう。そのかわり、お前のお小遣いを増やそう。これがな、仕分けだ、仕分け」
勢いよくそう言いました。私は、そうだね、と愛想笑いで答えました。そして、背広から漂う女性ものの香水の匂いを嗅ぎながら、この政権は長く続かないだろうなぁと考えました。とはいえ、もらえるものはもらっておこうなんて、そうも思ったのでした。
父さんも、母さんも、私も、自分勝手な人間なんでしょう。そんな三人が協力して生きていかなければいけないのだから、家族って大変だし、時には滑稽だし、虚しくなることもあると思います。だけど、私は、この家族が好きなんです。理由なんて考えないし、要らないし、そんなものナンセンスでしょ。深く考えない、重く受け止めない。それが我が家の全体スタンス。
あ、そうか。
だけど、父さんも、母さんも、そんな感じで軽く結婚したんだよなぁ。
やっぱり、深く考えることも大事だ。
学びました、十五歳。
Ciao Willwayさん
返信削除お引っ越しおめでとうございます
全ての興味深いエッセイを読ませていただき
そのすべてを代表して、ここにコメント残します
おもしろかったーーー!!
>junkoさん
返信削除ありがとうございます!
こちらは文字が大きくできたり、いろいろと変更しやすいのが気に入っています。
むかーしの記事から引っこ抜いてきていますが、なかなか数が多くて……。
こちらでもよろしくお願いします。