2012年8月2日

さよならの空

さよならの空

朱川湊人の長編小説で、今よりちょっとだけ未来の話。オゾンホールを修復する化学薬品にまつわる話だが、薄く「終末世界」の要素が入っている。世界が終わりかける時の話は、自分でも小説を書いてみたくらいで、けっこう好きだ。この手の話では、伊坂幸太郎の『終末のフール』や、有川浩の『塩の街』があって、どちらも凄く面白くてお勧め。で、本書であるが、あと一歩の惜しさを感じてしまった。

<関連>
シェルターの夜
宇宙人襲来!!

戦争する脳―破局への病理

戦争する脳―破局への病理 
ざざっとしか読まなかった……。相当に興味ある人以外、あまりお勧めしない。

2012年8月1日

死者に雨を、生者に傘を

原爆忌の今日、天気予報は晴れだった。
だが、十一時を過ぎた頃から雲行きが怪しくなり、やがて土砂降りになった。
大学の講義室前の階段に、老人が独り座って雨を眺めていた。
私は講義室に入って、置き去りの傘を二本拝借した。
老人に「どうぞ」と声をかけて気づいた。
雨を見ながら、彼は泣いていた。

原爆に遭った人たちは、喉をカラカラにして亡くなったと聞く。
この雨は、渇いた魂たちに対する慰霊の雨なのかもしれない。
そういえば、近くの公園では慰霊祭があっているはずだ。
きっと参加者はずぶ濡れだろう。
慰霊の雨を喜んでいる参加者も多いんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら大学内を歩いた。
傘を叩いて零れ落ちる雨は滝のようだった。
慰霊の雨とはいえ、自分が濡れるのはいやだった。

黒い服を着た人たちと擦れ違った。
きっと慰霊祭に参加したのだろう。
みんな、コンビニの傘をさしていた。
びしょ濡れの人はいなかった。
慰霊祭を抜け出して傘を買いに行ったのか。
いくら慰霊の雨とはいえ、誰だって我が身が濡れるのはいやなんだ。

目の前の問題に四苦八苦すること。
それが、生きている、ということなのかもしれない。
コンビニの傘の群れを見ながら、とりとめもなく考えた。

ふと見やれば、離れたところを、先ほどの老人が傘をさして歩いていた。

死者に雨を、生者に傘を。

(2005年8月9日)

はたらく人

Willway_ER

残虐記

残虐記
桐野の本は何冊か読んだが、俺にとっては当たりハズレがあって、一番の当たりは『魂萌え!』だった。この本は当たりのほうに入るが、読後感はあまり良くない。まぁ内容が内容なだけに、そりゃそうだ。
本書のamazonの宣伝文句を引用しておく。
自分は少女誘拐監禁事件の被害者だったという驚くべき手記を残して、作家が消えた。黒く汚れた男の爪、饐えた臭い、含んだ水の鉄錆の味。性と暴力の気配が満ちる密室で、少女が夜毎に育てた毒の夢と男の欲望とが交錯する。誰にも明かされない真実をめぐって少女に注がれた隠微な視線、幾重にも重なり合った虚構と現実の姿を、独創的なリアリズムを駆使して描出した傑作長編。柴田錬三郎賞受賞作。