2017年6月6日

アメリカの精神科病棟を舞台に繰り広げられる人間ドラマ 『精神病棟』


救急を専門として9年間勤務した38歳のシーガー医師は、燃え尽き症候群のようになって精神科医へ転科する。その直後の1年間を描いたノンフィクションである、たぶん。

「たぶん」というのは、いくらアメリカだからってちょっと信じられないな……、というようなエピソードもいくつかあるからだ。しかし、1988年(いまから30年近くも前だ)のアメリカということを考えれば、これくらいのことはあり得るのかもしれない。

いくらかの脚色は混じっているだろうが、それでも充分に面白い本だった。短いエピソードが少しずつ重なり合いながら、シーガー医師が精神科医として一年ぶん成長していく様子を描いた長編小説のような趣きもある。

思わず鳥肌の立つ感動的なエピソードもあったが、それはネタバレになるので書きにくい(とはいえ本書は絶版だし、読む人も少ないだろうけれど……)。

指導医マーカム先生の言葉が印象に残ったので記しておく。
「精神病患者はみな、正気の核とでもいうべきものを持っている。どんなに小さくても、いかに深く埋もれていても、必ずそれはある。自分の中にそれがあることに気づかない患者もいる。その核を見つけ出し、それを育てていくのが私たち精神科医の仕事だ。つぼみをつけた草花に水をやるようにして、それを大きくしていく。それが患者に対して私たちができる、一番大切なことだ」
アシュウィン医師が急に不安そうな顔をした。そして、私と同じ疑問を口にした。
「では薬物療法はどんな役に立つのでしょう? これまで私たちが学んできたことには、意味があるのですか?」
(中略)
「もちろん薬物療法は大切だ。(中略)だが同じように大事なのは、精神病にとって薬が全てではないと知ることだ。糖尿病にとってインシュリンが全てではないのと同じにね」
(中略)
「薬は精神療法をする上での障害を取り除く」と、マーカム医師は続けた。「同時に精神療法は、薬物療法に対する障害を除く。この二つは互いに補完しあっているもので、片方だけではなりたたないのだ」彼は笑い声をあげた。「自分の経験からも言えることだが、薬について学ぶほうが、精神療法のやり方を学ぶよりずっとやさしいね」
こんな良い本が絶版になっているのはもったいないし、この先生の本が他に見当たらないのも残念だ。

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