若手精神科医向けの名著『精神科における予診・初診・初期治療』の著者・笠原嘉(よみし)先生による論文集。一冊のまとまった本ではなく論文集なので、細切れという感じにはなってしまうが、得るところの多い本である。
医師は患者にとって「現実国から送られてきた大使」であるとよくいわれるが、その「現実」の意味は決して入院前の患者をとりまいていたような乾いた現実ではない。われわれは自分たちが病院外の生活で持っている因襲的な世界のありかたを、どれほど治療の場にもちこまないでおれるか、そして治療の目標を患者の実存可能性の展開におくことができるか、それらは患者との接触をはかろうとするとき最初に自省されるべき点だろうと考える。
分裂病者がその初期においてはコンタクトを求めつつかつ「同時に」コンタクトを拒む(あるいはためらう)という二重性、両面性への認識である。もし彼らが時に示す接触希求の面にのみ目を奪われ、一方の「同時に併存する」接触拒否的な面を忘れるならば、医師は分裂病者を健常者となんら変わりのない者とみなすことになり、彼らの接触希求に対してきわめて日常的なしかたで、つまり自分の家族や友人に対すると同じしかたで応えることになる。(中略)友人的交流も、患者が半ば閉ざそうとしている心の扉を不遠慮におしあけるような行為を、はからずもしかねない。
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