面白い本を読むという快感を長時間にわたって与えてくれる本。
多くの登場人物の背景を細部まで描くところが宮部みゆきらしく、そこが読者の好みを分けるかもしれない。小説の奥行きはぐっと深まるのだが、ストーリーのスピーディな展開を期待する人にはもどかしいだろう。
殺人には加害者と被害者がいるだけでなく、加害者にも被害者にも、家族や恋人や友人がいる。そして、そういう人たちで織りなしている社会という布地の1ヶ所が殺人で破れると、その周りが次々とほつれていく。本書ではそういう「ほつれ」の残酷さや切なさが大きなテーマで、だからこそ「こんな脇役についてもここまで背景・細部を描写するか」と思えるほどに描きこまれていて、それが実際に活きている。
犯人の底なしの邪悪さには怖気を感じるほどである。小説とはいえ、よくもまぁこれほどグロテスクな内面を持つ人間を描き切ったものだと感服する。
ストーリーは充分にハイレベルで面白いのだが、最後が若干大味になった感がある。宮部みゆきの本には、時々こういう「突然の来客で部屋を慌てて片付けた」ようなラストのものがある。そんなところもひっくるめて、宮部みゆきの魅力、かな?
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