「囚人のジレンマ」をご存じだろうか?
2人の共犯者が囚われているとする。検察が、それぞれの囚人に対して別々に、
「仲間を売って罪を認めれば、お前の刑を軽くしよう」
という取り引きをもちかる。ただし、条件は以下のとおり。
1.2人とも黙秘を貫けば、それぞれ懲役2年ずつ。
2.2人とも裏切って自白すれば、懲役はともに5年。
3.1人だけが裏切り、もう1人が黙秘したら、裏切ったほうは釈放、黙秘したほうは懲役8年。
さて、あなたが囚人だった場合、どうするだろう?
相手が黙秘すると考えれば、こちらは自白するのが一番得だ。でも、きっと相手も同じことを考えているだろうし、そうなると「2人とも自白」になるから懲役5年か……。それなら、こちらが黙秘を貫いたらどうだろう? 相手も黙秘してくれたら2年ずつで済むが、もし相手が自白を選んだら自分だけ8年も懲役になってしまう……。だったら、いっそのこと「2人とも自白」の懲役5年を受けるほうがマシか……。
客観的に、2人の懲役年数を合計すれば、2人とも黙秘だと4年、片方が自白で8年、両方自白で10年になる。ということは、2人で黙秘するのが一番良いはずだ。ところが当事者になると、そうは考えられなくなる。
この囚人のジレンマを、互いに高得点を狙うゲームにして、コンピュータにシミュレーションさせたのが著者の画期的な業績である。このゲームは、例えば「両者が協力」で5点ずつ、「裏切りと協調」では裏切りに7点、協調に1点、「裏切りと裏切り」で1点ずつといった具合に設定される。そして、専門家が「協調と裏切りを一定のパターンでとる」プログラムを持ち寄って、プログラム同士を総当たりのリーグ戦で競わせ、合計点数で勝敗を決めるのだ。
その結果、「しっぺ返し」というプログラムが最も好成績だった。これは、
「相手が裏切るまでは協調する。相手が裏切ったら、こちらも裏切ることで報復する。ただし、報復は1回だけ」
というプログラムである。
勝負の結果が面白い。
「しっぺ返し」のプログラムは、それぞれの試合では一度も勝てなかったのに、全試合での合計得点では1位になったのだ。「裏切り続ける」あるいは「協調に重点を置きすぎる」プログラムは、勝負ごとに見れば勝ったり負けたりだが、全体としては良い成績を残せなかった。
副題に「バクテリアから国際関係まで」とあるが、確かにこれは日本と隣国たちにも当てはまりそうだ。裏切りばかりを繰り返す国に対して、日本は協調を重視しすぎてはいないか? きっちりと報復したほうが良いのではないか? ただし、1回だけ。
そして、裏切る国のほうとしても、この本をしっかり読むべきではないか? たとえ日本との勝負に勝てたとしても、身についた裏切り路線は総合得点によって淘汰される運命にあるのだから。
初版は1998年。古典とまではいかないにしても、やや古い時代に書かれた本である。にも関わらず、まったく古さを感じさせない中身であった。非常に考えることの多い、お勧めの本である。
0 件のコメント:
コメントを投稿
コメントへの返信を一時中止しています。
一部エントリでコメント欄に素晴らしいご意見をいただいており、閲覧者の参考にもなると思われるため、コメント欄そのものは残しております。
また、いただいたコメントはすべて読んでおります。