2016年9月8日

虐待からは、子どもだけでなく、親をも救わなければならない! 『虐待 沈黙を破った母親たち』


虐待する母を責めるだけでは不十分で、虐待から「子どもを救う」を一歩進めて「子どもと親を救う」という視点で語られた本。虐待は、子どもはもちろん、親もまた自らの虐待行為に悩み苦しんでいることが多く、そして親自身も過去に虐待の被害者だったということも珍しくない。

その実例として、4人の女性が挙げられている。それを読むと、彼女らが子どもを虐待する原因は、彼女らの親にあるのだという気がしてくる。しかし、よく考えると、同じ論理が彼女らの親にだって当てはまるはずで、親が彼女らを虐待したのは、親の親に問題があるのだ、ではその親の親はなぜ問題を抱えたのかというと親の親の親が……、こうやって諸悪の根源を探していくとキリがない。

では、今できることは何か。もう少し正確に言えば、「今の世代」でできることは何か。それは虐待の連鎖を断ち切ることである。そのためには、当事者だけでなく個々人が、まず「虐待」を知ることである。報道される残酷でセンセーショナルな虐待内容だけを見聞きして眉をひそめ、虐待する親を批難するだけでは何も変わらない。本書では、4人の事例を紹介した後、アメリカでケースワーカーとして働く日本人、弁護士、精神科医にもインタビューしてまとめてある。

一朝一夕に、劇的な改善というのはあり得ない。虐待してしまう親の「当事者会」に出会って、精神的に救われたと感じる親たちでさえ、やはりふとした時に虐待に向かってしまうことがあるらしい。それくらいに根は深い。だから、「今の世代で断ち切る」というのは不可能なのかもしれないが、少なくともそのための大切な一歩にはなれるはずだ。

本書は、虐待の悲惨な内容だけでなく、この「どうすれば断ち切れるか」という視点でも掘り下げてあるところが良かった。

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