旅人が老人に尋ねた。
「隣村までは歩いてどれくらいかかりますか?」
老人は、
「歩きなさい」
と答えた。
「いやいや、わたしが知りたいのは、隣村までどれくらい時間がかかるかなんですよ」
そう言う旅人に、老人は諭した。
「まず歩いてみなさい。その歩きかたを見なければ、何時間かかるか判断できないではないか」
本書にある寓話を少し改変したもので、精神科医療にとって有意義な示唆に富む物語である。診察室で、患者や家族に生活上の提案をしたら、
「それをやって、どれくらいで治りますか?」
と尋ねられることがある。まず実行できるかどうか、そしてどれくらいのペースでやれるか、そういったことは人によって異なる。だから、やってみないことには「どれくらい」なんて予測もつかない。実際には、やってみても予測がつかないことは多々あるけれど……。
さて、本書はソーシャルワーカーの吉岡隆が、精神科医なだいなだに個人指導を依頼したことから話が始まる。指導はメールのやりとりで行なわれ、なだいなだのピシピシと厳しくも小気味良い弁舌が読んでいて気持ち良かった。
ところが、読み始めは「なかなか良い本だ」と思ったのに、そのやりとりは80ページほどで終わってしまった。そして、そこから70ページほどは吉岡隆が自身の「性依存症」について語り、また、依存症を抱える人たちとの仕事での関わりを振り返るような内容だった。240ページ弱ある本のうち、3分の1である。率直に言って興味のもてるものではなかったので、かなり読み飛ばした。
最後はなだいなだによる「常識を治療する」と題された章だが、彼の本を何冊か読んだことのある者にとっては、ただの「繰り返し」に過ぎない。敢えて精読する必要性を感じなかった。
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