2018年5月7日

アルコール依存症の治療に携わるすべての医療者へお勧め。一緒に革命を起こしませんか!? 『アルコール依存症治療革命』

依存症の治療は難しい。患者たちはそう簡単に生きかたを変えようとしない。むしろ治療意欲に乏しい人が多く、「底つき体験」を経なければ自らの問題に直面できないし、問題に気づいていない人すら少なくない。

ずっとそう思ってきた。そういうタイトルのブログも書いた。
依存症治療は難しい 『依存症』

だが、本書を読んで考えかたが変わった。それも、大いに反省しながら。

依存症の治療は、確かに難しい。しかし、難しくしているのは、自分たち医療者のほうだったのではないか。

いくつか引用していく。
治療を困難にしている最大の原因は、治療者の患者に対する陰性感情・忌避感情である。
アルコール依存症の治療が困難なのは、治療技法が難しいからではなく、治療者が症状を「症状」として捉えられず、「けしからん!」と感情的になってしまうことに問題がある。「病気」や「症状」として理解できていないと、「治療」ではなく「罰」で対処しようとする。
まさに、これである。さすがに「けしからん!」「処罰感情」という状況にまで陥ってはいなかったものの、それに近い態度をとってしまったことがあるかもしれない。また、スタッフのそういう姿勢や発言を見過ごしてきたかもしれない。これでは治療がうまくいかないのも仕方ない。

依存症については「自己治療」という考えかたがある。
アルコール依存症患者の飲酒は、生きにくさを抱えた人の孤独な自己治療である。
彼らの多くは、幼少時から深い傷を負っていたり、人に対して安心感をもてなかったり、過度の緊張を強いられたりしている。そして、苦しい時にも人を信頼できず、誰にも相談したり助けを求めたりできない、対処できない困難に直面する時、飲酒によって気分を変えて凌いできた。
この「孤独な自己治療」という考えかたを初めて知ったのは『人はなぜ依存症になるのか』という本だった。この考えかたがとても好きで、今後の治療における座右の銘に据える。

さて、引用を続ける。
アルコール依存症の治療では、患者も家族も治療者も断酒に囚われやすい。治療者や家族は必ず「絶対飲酒しないように!」と釘を刺す。患者は「飲みたい」、でも「飲んではいけない」と葛藤している。断酒を強要されると飲酒欲求は高まる。断酒を強要することは害でありやってはいけない。再飲酒を責めることも禁忌である。
飲酒をやめようと思っても飲んでしまうのは、アルコール依存症の症状である。病気の症状を責めてよくなるわけがない。むしろ悪化する。
本書では治療者が留意すべきこともたくさん書いてあり、その一部を紹介する。
予定通り来院できなくても責めない(連続飲酒が続いている場合や、やめて間もない場合は、予定通りに来院することがいかに大変であるかを知っておく)。
「ようこそ」と笑顔で迎え入れる態度をもてれば、それだけでも十分に治療的である。 
断酒が続かなくても、治療につながっていればやめられるようになることを知っておくと、治療者は余裕をもって対応できる。治療者が、患者によい変化が得られず結果を焦ることのないように留意しておく。
最後に、依存症治療におけるもっとも大切なことを引用する。
彼らの中に「このままではいけない」、「回復したい」という思いが存在することも事実である。そして、自分を受け入れてくれる拠り所を求めている。人から癒しを得ることができなかったために物質による「仮初めの癒し」を求め、のめりこんだ結果が依存症である。とすると、人の中にあって人から安心感・安全感を得られるようになった時、物質によって気分を変える必要はなくなる。依存症からの回復には、基にある対人関係の問題の改善が不可欠である。(中略)
治療者は、薬物使用の有無ばかりに囚われた近視眼的な関わりではなく、背景にある「生きにくさ」「孤独感」「安心感・安全感の欠如」などを見据えた対応が必要である。
医療者であれば、科に関係なく、必ずどこかでアルコール依存症の人に関わる。なぜなら、アルコール依存症の人は絶対と言って良いくらい身体疾患も抱えているからだ。そして、本書は精神科の専門的な話だけでなく、かなり一般的な対応についてもページを多く割いてある。だから、精神科の従事者だけでなく、すべての医療者に強く勧めたい。

一緒に、革命を起こしませんか。

2 件のコメント:

  1. よい記事を ありがとうございます。
    私は疲れるので 余り飲酒しなくなりましたが
    周囲には自覚の無いアルコール依存症の人が多いです。
    特に田舎では 高齢者の男性の過半数以上ではないでしょうか?

    長年の毎日の飲酒習慣は ゆるやかに脳細胞を破壊していくようですね。
    こういう医学的事象も認知が広がればいいとおもいます。
    ウェルニッケ脳症
    https://ja.wikipedia.org/wiki/ウェルニッケ脳症

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  2. 不登校と似ていませんか。家族があまり学校のことを言うと、うまくいかない気がします。学校以外の会話が親子の間で豊富になるといい感じで、今のところうまくいっています。

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