『五体不満足』で有名な乙武氏が不倫していた。
乙武氏の不倫を知り批難したくなる気持ちは、ひ弱な人類が生存競争で勝ち抜くために身につけた「社会性」が根源にある。人類が生き残るため、本能的に容認されない行動を批難することは至って自然なことである。こうした「批難される行動」は、宗教や文化に根づくうちに「倫理」と名付けられた。そしてそれ故に、乙武氏を責める人たちに対して、
「お前はそんなに倫理的で高尚な人間なのか!?」
といった妙なかばい方をする人も出ることになった。だが、上記したように、乙武氏を批難したくなるのは自らが倫理的で高尚だからではなく、それがヒトの本能なのだ。
いっぽう、乙武氏が世間に向かって謝ることは自然なのかどうか。これはヒトとしてではなく、ヒトも含めた「動物」として自然なことである。動物が同種同士で争う場合、不利な立場、負けが確実な状況になると、それ以上の攻撃を受けないようなシグナルを発する。ヒトの場合、それが言葉や表情での謝罪になる。また、動物の多くは敗者のシグナルを受けると、勝者はそれ以上の攻撃性を発揮しなくなる。
改めてまとめる。
不倫した個体を集団で攻撃するのは動物の中でもヒトくらいだが、それはヒトが身につけた生存のための武器である「社会性」が根源にある。また、負けを感じた側が敗者のポーズをとること、負けのシグナルを受けた勝者側が攻撃をやめたくなることは、多くの動物で共通していることである。
これらは、デズモンド・モリスの『裸のサル』と『マン・ウォッチング』を読んで得た着想(というほど大げさでもないが)である。
デズモンド・モリスが1ヶ月で書いた世界的なベストセラー『裸のサル』は確かに面白かった。本書は人間の行動をもっと学問的に詳細に観察・分類・考察したもので、『裸のサル』に比べるとエンタテイメント性が低く、難解でこそないものの、より学術的な仕上がりになっている。
よくぞここまで観察・分類したものだと感心するくらい、人間の行動を多岐にわたって記述してある。精神科医として患者を(そして時にスタッフをも)観察するのが仕事である自分にとって、本書は良い刺激になった。
先に述べたように、エンタテイメント性はかなり低いので、息抜き読書としてはあまり勧められない。よほど興味のある人向け。
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