一年半前に読んだ『アルコール依存症治療革命』では、俺の脳内で本当に革命が起こった。
革命家・成瀬先生が新たに出された本、ということで期待して読んだ。
しかし、内容的には『アルコール~』に書かれていたことを薬物・処方薬へと広げたもので、一年半前のような興奮は感じなかった。
これは、少しも残念なことではない。
なぜなら、あの革命がいまなお脳内で生きているということだからだ。
では、人に勧めるなら『アルコール~』とどちらだろうか。
それは人による。
アルコール依存症にだけ関わる人なら前著で良いし、他の依存症にも関心があるなら本書だ。
残念な点を一つあげるならタイトル。
「ハームリダクション」という単語は、依存症に関わる人にはかなり普及しているが、医療者でさえ「なにそれ?」という人はまだまだいるし、たとえ聞いたことがあったとしても、
「あぁ、HIV予防のために、麻薬常習者に注射器を配ったあれね」
くらいの人も多いだろう。
そういう人たちに本書を読ませ、依存症治療への意識を改革する、ということを目的にした場合、このタイトルでは届きにくいのではなかろうか。
『アルコール依存症治療革命』のように、もっとポップに、『依存症、これだけ!』とか、出版社は違うが『ねころんで読める依存症治療』とか、そういう手に取りやすさを重視しても良かったのではなかろうか。
以下、本書で時おりまとめられるポイントを引用。
【依存症に関係する人間関係6つの問題】
- 自己評価が低く自分に自信をもてない
- 人を信じられない
- 本音を言えない
- 見捨てられる不安が強い
- 孤独でさみしい
- 自分を大切にできない
※自分は親からさえ受け入れられていない、他人から受け入れられる価値がない、と誤解している。
【依存症患者の背景にみられる具体的な特徴】
- 本当は、完璧主義できちんとしなければ気がすまない。
- 本当は、柔軟性がなく不器用で自信がない。
- 本当は、頑張り屋であり頑張らなければと思っている。
- 本当は、根はきわめてまじめである。
- 本当は、やさしく人がいい。
- 本当は、気が小さい・臆病・人が怖い。
- 本当は、恥ずかしがりで寂しがりである。
- 本当は、自分は人に受け入れられないと思い込んでいる。
- 本当は、自分は人に受け入れられたいと思っている。
- 本当は、生きていることがつらくて仕方がない。
【依存症患者への望ましい対応10カ条】
- 患者一人ひとりに敬意をもって接する。
- 患者と対等の立場にあることを常に自覚する。
- 患者の自尊感情を傷つけない。
- 患者を選ばない。
- 患者をコントロールしようとしない。
- 患者にルールを守らせることに囚われすぎない。
- 患者との1対1の信頼関係づくりを大切にする。
- 患者に過大な期待をせず、長い目で回復を見守る。
- 患者に明るく安心できる場を提供する。
- 患者の自立を促す関わりを心がける。
【「ようこそ外来」は「ハームリダクション外来」である】
- 外来に来たこと自体をすべてのスタッフで評価・歓迎する。
- 覚せい剤使用については通報しない保証をする。
- 本人が問題に感じていることを聞き取る。
- 本人がどうしたいかに焦点をあてる。
- これまでに起きた問題点を整理し解決案を提示する。
- 依存症について説明し適時必要な情報提供をする。
- 外来を正直な思いを安心して話せる場とする。
- 外来で治療を続けられるように最大限配慮する。
- 断酒・断薬を強要しない。再飲酒・再使用を責めない。
- 患者の困っていることに焦点を当てて関わる。 ※患者の人権を尊重して信頼関係を築くことを優先する。
【依存症治療「7つの法則」】
- 依存症は「病気」であると理解できれば治療はうまくいく.
- 治療を困難にしている最大の原因は,治療者の患者に対する陰性感情である.
- 回復者に会い回復を信じられると,治療者のスタンスは変わる.
- 依存症患者を理解するために「6つの特徴」を覚えておく.
- 依存症患者の飲酒・薬物使用は,生きにくさを抱えた人の「孤独な自己治療」
- である.
- 断酒・断薬を強要せず再飲酒・再使用を責めなければ,よい治療者になれる。 ※断酒・断薬の有無に囚われず信頼関係を築いていくことが治療のコツである。
【ハームリダクション臨床の心得10カ条】
- 患者中心のスタンスを常に維持する。
- 患者に敬意をもって誠実に対応する。
- 患者との信頼関係づくりを優先する。
- 患者の現状をそのまま肯定的に受け入れる。
- 患者の問題行動は症状の影響が大きいことを理解する。
- 治療目標を断酒・断薬に焦点づけしない。
- 患者の飲酒・薬物使用を責めずに受け入れる。
- 患者が困っていることに焦点づけする。
- 患者の飲酒・薬物使用に囚われず患者の害の軽減を目的とする。
- 患者に陰性感情をもたずに寄り添っていく。
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