井上ひさしの自伝的小説、らしい。
孤児院を舞台にした中編集で、いずれも井上ひさしの人を見つめる優しさのようなものがにじみ出ている。全体として派手さはなく、号泣するような悲しさもない。ただ、読んでいて、何とも言えない切なさがこみ上げる。
例えば、孤児院で生活する兄弟が祖母の家に帰省するシーン。弟が味噌汁の茶碗を持つ手を見た祖母が、持ち方が変だと指摘するのに対して、兄が、
「孤児院の茶碗は割れないよう金属でできていて、こうやって持つと熱くないんだ」
といった説明をし、それを聞いた祖母が涙ぐむ。
こういった細部の描写があるから迫真性が宿り、孤児院での生活の哀しさが伝わってくる。著者の実体験をもとにしているからこそなのだろう。
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