2019年2月12日

医療者も、学生も、一般の人も、薬と正しく向き合うために! 『新薬の狩人たち 成功率0.1%の探求』


19世紀半ば、出産後の死亡率は自宅よりも病院のほうが高かった。医師のセンメルヴェイスはこれに疑問をもち、産科医の手洗いを徹底させた。それまで、医師は死体解剖などで汚染された手を洗うことなく出産を介助していたのだ。医師の手洗いによって、産褥熱による妊婦死亡率は18%から2%に激減した。

これは医学部でも教わる超有名な話で、センメルヴェイスの優秀さを感じさせるエピソードである。ところが、この話には続きがある。当時、細菌はまだ発見されておらず、センメルヴェイスの説は医学界にまったく受け入れられなかったのだ。失意の彼は酒に溺れ、ついには精神病院に入れられてしまう。そして、病院からの脱走を試みたさいに監視人から殴られ、そのせいで40代半ばで死亡してしまったのだ。

知らなかった……。そして、なんという不遇……。

このように、「これ知ってる!」と思うような、現代では「成功エピソード」として語られている物語にも、そのさらに奥には挫折や屈辱や不遇があったという裏話が満載の本である。

医師、薬剤師、そしてこの二つを目指す学生は必読だ。仕事で日々処方する薬がどのようにして発見され、無視され、あるいは嘲笑され、再発見され、臨床に採用されるに至ったか。薬の歴史を知ることで、処方薬だけでなく製薬会社との向き合いかたもきっと変わるだろう。

それから、意欲的な化学系学生にも読んでみて欲しい。きっと探求心が揺さぶられるはずだ。そして、まだまだ治せない数多くの病気に苦しむ人たちを救うべく、野心的で優秀な人材が創薬の世界に飛び込んでくれることを期待する。

さらに、一般の人にもお勧めだ。自分たちの内服する薬が、いかに「曖昧な起源」から出発したか、そして、未だに不確実な部分が多々あるのだということを理解しておくのは、医療や薬との付き合いを考えるうえで大いに役立つだろう。

※「センメルヴェイス」の表記は本書に準じた。

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