加害者家族についてのルポではあるが、冒頭に紹介されている強姦事件での加害者の思考の壊れっぷりが際立っていて、むしろそちらが印象に残ってしまった。
強姦犯の告白頭をガツンと殴られたような、天地がひっくり返るような、発想の転換というか、思考の反転というか、かなりぶっ飛んだセリフに吐き気を催す。
「裁判で、香奈さんが言ったんです。事件は一生忘れることができないって。この瞬間、確信しました。香奈さんは僕のものになったって」
刑務所の面会室。大沢良太(三十代)は、アクリル板の向こうで目を輝かせながら、事件当時のことを語った。
この加害者・良太が、結婚を思い立った経緯もすごい。
それでも、会社で香奈を見かける度に憧れは強くなるばかりで、良太は密かに情報を集めようとしていた。あるとき、香奈に関するとんでもない噂を耳にした。香奈が部長と不倫をしているというのだ。他者をいったいなんだと思っているのだ、この男は……。そして、妻となった女性は、被害者に近づくための存在として利用されてしまう。
良大は、会社の飲み会で、なんとか香奈の隣に座る機会を作り、事実を確かめようとした。
「部長って、俺たちにとつては近づきがたい存在だけど、伊藤さんはよく話してるよね?」
「もしかして、私たちのこと疑ってます? 噂されてるって聞きましたけど、間違いですよ」
良太は胸をなで下ろした。
私は、社内恋愛はしたくないんです。部長は結婚しているし、絶対そういう関係にならないからこそ仕事の話をしやすいんです」
良太はこのときふと、自分も結婚してみようかと思った。香奈以外の女性に興味はなかったが、香奈からいつまでも彼女すらできない男だと思われたくなかった。
良大は半年後、同僚の尚美と結婚した。同期の中では最も早い結婚だった。こんな加害者・良太だが、取材に対しては泣き崩れたようだ。ただし、まったくもって共感できないような理由であり、反省なんて微塵も感じられない。
「尚実にとって、僕は悪い条件ではないと思ったんです。彼女はこれといったキャリアもないし、早めに寿退社した方が彼女にとってもいいと思いました」
良太は結婚後、新居を、香奈の自宅がある最寄り駅の隣に決めていた。良大は、自宅が近所だという理由で香奈に近つく機会を増やせると思ったのだ。しかも妻の尚美は香奈の先輩だ。いくらガードが堅い香奈でも、先輩の夫である自分を疑うことはないだろうと考えた。あわよくば、自宅に入れてもらえるチャンスがあるかもしれないと想像するだけで、興奮を覚えた。
「後悔はしてません。ああするしかなかった……」
良大はそう言って、泣き崩れた。それが良太の本心だった。
「もちろん、強引なことはしたくなかった。いや、もし、香奈さんと一緒に働けるなら、それでよかった。急に会えなくなるなんて、どうしても耐えられなかった。僕のこと、どうしても忘れてほしくなかった……」
良太はそう言いながら泣きじゃくっていた。裁判では、「反省している。一生かけて償う」など、ただ通り一遍の謝罪ばかり繰り返していたが、本当に被害者に伝えたかったことは何だったのか。
「香奈さんを、愛していたということです。これまでも、きっとこれからも……」
事件後、良太は拘置所で謝罪文として何通もの手紙を被害者の香奈宛てに書いていたが、その内容はすべて謝罪というより愛の告白であり、弁護人から不適切だと言われ被害者に送られることはなかった。
この強烈なケース以外にも、思わずため息が漏れるようなものがいくつも紹介されていた。
「加害者と暮らし続けるということ」という副題がついてはいるが、離婚したケースも多く、ちょっとタイトルと中身がズレたかなという印象。でも、面白かった。
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