2013年9月13日

灯暗境の小鬼たち

父はビールを飲んでいた。母は台所で作った料理を庭に運んでいた。祖父は酔っ払って顔を赤くし、祖母はそんな祖父をからかっていた。叔父たちはバカ話をくり広げ、叔母たちから冷ややかに流されていた。

夏休み、お盆。
祖父母の家の庭にテーブルを出して、大人たちは酒盛りをしていた。弟と妹は、すでに家の中に入っていとこたちとテレビを観ていた。道路向かいの田んぼで、蛙たちが鳴いていた。少し離れた家から爆竹の音と、人の笑い声が響いてくる。僕は弟たちには混じらず、かといって大人たちの輪にも入れなかった。六年生にもなると、弟や妹、従弟らと一緒にテレビを観るのが嫌だった。かといって、大人の話にもついていけない、そんな中途半端な立場で、大人たちより少し離れて座っていた。

家の裏にある池に注ぐ山水の音が聞こえる。水の跳ねた音がしたのは、鯉かニジマスか、あるいはフナか。昼間には、従弟たちとこの池で釣りをした。鯉は釣っちゃダメ、ニジマスかフナだけよ、と祖母が言った。周りの大人たちは子どもらを囃したてた。釣りかけた魚が運よく逃げ出すと、子どもたちはため息を漏らしたり舌打ちをついたりした。大人たちは、そんな子どもの様子を見てどっと沸いた。鯉が釣れると、祖父は慌てて針を外しにかかった。魚たちは苦しそうにピチピチと身をよじりパクパクと口を動かしていた。釣ったニジマスやフナは、その日の食卓に乗った。そんな池の方でまた、魚の跳ねる音がした。

家の中から子どもたちの笑い声が聞こえる。お笑いでも観ているのだろうか。大人たちが一斉に笑った。こちらは酔った誰かの冗談が面白かったのだろう。僕は空を見上げた。月は山かげに隠れていて、そのかわり、星がたくさん見えた。ずっと遠くのほうから犬の鳴き声がした。たぶん、山本さんちのシロだ。

また、魚が跳ねた。

なんとなく気になって、池の方へ行くことにした。酒盛り用に出した照明の灯りは、僕が一歩進むごとに弱くなる。子どもたちの笑い声が遠くなる。大人たちの話し声が遠くなる。数歩先には、灯りのぎりぎり届くところと、まったく届かないところの境目があった。境目の向こう、闇の側に向かって、僕は跳ねた。

水たまりの上に着地して、パシャと水が広がった。子どもたちの笑い声が聞こえなくなった。大人たちの笑い声も止まった。僕は、おそるおそる後ろを振り返った。庭の灯りの中、大人たちがこちらに顔を向けていた。境目をこえた僕の姿は、大人たちに見えているのだろうか。すごく不安になった。戻ろうと思い足をあげたが、うまく進まない。声を出そうとしても、出てこない。水たまりの上でもがいた。

ピチピチ、パクパク。

「おいでよ」
子どもの声が背中から聞こえたような気がした。いつの間にか近くまできていた祖母が僕の手をつかみ、闇に向かって、
「シッシッ」
と野良犬を追い払うように手を振った。僕が灯りの側に入ると、うしろから、いくつかのため息と舌打ちが聞こえた。同時に、体の大きな何かがどっと笑い合うような濁った響き。

そして。
また。
魚の跳ねる音がした。

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