2018年12月17日

統合失調症の人が妄想世界に入りこむのはどうしてか?

統合失調症の人と話していると、彼らが妄想世界に入り込む瞬間を目撃することがある。

わりと多いのは、彼らの好まざる問題をアクロバティックな論理(これが妄想)でかわすパターン。たとえば、ハローワークで職探しという話題になったところで、
「天皇の孫だと判明したので働けなくなった」
とかわされる。

妄想突入の瞬間を目撃できたときは、
「この人の精神にとっての負荷は、こういう話題なのか」
と把握できる。その瞬間に居合わせなくても、妄想症状がひどくなったときに、自宅や入院での生活環境を確認してみると、彼らにとっての負荷がなにかを推し測ることができる。

さて、妄想には、被害妄想、誇大妄想、心気妄想など、いろいろな分類がある。

本人にとっての過剰な負荷を回避するための「アクロバティックな論理」が、ある人はその負荷に立ち向かう被害的な内容(「CIAと公安から嫌がらせされる」など)になり、別の人は負荷をするりとかわす誇大的なもの(「天皇の孫だから」など)になる。この負荷回避のパターンに、個々のキャラクタがにじみ出る。

こういう目で見ると、被害妄想を訴える人は妄想世界のなかでの「被害者」ではあるものの、キャラクタとしては「立ち向かう気質」の強い人、誇大妄想や心気妄想を抱える人は「直接的な戦いを避ける」タイプの人であることが多い。

2018年12月14日

発掘! 絶版名著!! 『ザ・ライト・スタッフ 七人の宇宙飛行士』


こんな名著が絶版なんて……。

著者トム・ウルフの語り口がクドい! でも! それが良い!!(それが良いのだ!)

こんな感じのクドさで、読者をグイグイと惹きつけながら、内容そのものも実に素晴らしいものだった。

アメリカとソ連による宇宙競争の最初期を描いたノンフィクションで、宇宙工学その他の専門知識なんてなくても存分に楽しめた(いいか、存分に楽しめたんだぞ!)。

Kidle化される日が来るのかもしれないが、書籍として手元に置いておきたい一冊。

2018年12月13日

美味しい言葉に必要なのは「隠し味」じゃない! まず知るべきは「言葉のレシピ」だった!! 『伝え方が9割』


美味しい言葉を紡ぐのに、一生懸命になって隠し味を探す必要はなかった。
ユニークなものを独力で創りだそうとするのもムダ骨だ。

なぜなら、素人にとってまず必要なのは「言葉のレシピ」だから。

そして、本書は美味しい言葉のレシピを、誰でも手軽にトライできるくらいシンプルに解説してある。ちょっと読んだだけで、以下のような例が思い浮かんだ。

病院の混み合う外来待合室で、苛立つ患者さんから待ち時間を尋ねられた場合の事務員の対応。

❌「今日は予約が多いので、1時間ほどお待ちいただけますか」

⭕「診察にきちんと時間をかけたいので、1時間ほどお待ちいただけますか」

どちらも「1時間ほど待ってください」と言っているのだが、前者は単に病院側の都合であるのに対し、後者は相手のニーズに触れている。たったそれだけの言い回しの違いで、言われたほうの気持ちは変わる。

あくまでも例ではあるが、こういう言い換え、言い回しを考えたり身につけたりするための最初の一歩、ファーストレシピとして非常に優れた一冊だった。

2018年12月11日

なに絶版だと!? ノバルティスが支援せんかーい!! 『ロリの静かな部屋 分裂病に囚われた少女の記録』

ロリの静かな部屋 分裂病に囚われた少女の記録

統合失調症の当事者であるロリ、父母、弟たち、友人、主治医らによる手記。

ロリの知的能力が高いからだろうか、彼女による発症前後の内面描写は生々しく、興味深く、そして恐ろしい。薬を飲んで寛解するとき、薬を飲まないで再燃するとき、その二つを繰り返すとき。それぞれの気持ちも、非常に巧みに記述してあり、精神科医としてとてもためになった。

父母や弟らによる手記は、辛く、切ない。また弟の一人はロリへの尊敬と愛情を強く抱きつつ、「自分も発症するのかもしれない」という発症恐怖を感じており、そういう気持ちが痛々しく綴られている。

主治医である女性医師の手記では、臨床姿勢や考えかたから、統合失調症の人と接するうえで大切なことを学ぶことができる。

そして、クロザピン。

日本でも限られた施設でしか処方できないこの薬が、ロリを崖っぷちから、いや崖の底から救い出した。劇的に回復するとき(精神科では数ヶ月単位の回復も「劇的」である)、幻聴や妄想、こころの動きはどうなるのか。ロリの手記から、その一端を垣間見ることができる。

こんな素晴らしい名著が、なぜか絶版である!!

クロザピンを日本で販売しているノバルティスは、本書の復刊を支援して、多くの精神科医に推薦してまわるべきではなかろうか。

Amazonではあまりに高値になっている。近所の古本で安くで見かけたら、即買いするべき一冊だ。

2018年12月10日

それでも戦地へ行く理由 『戦争を取材する 子どもたちは何を体験したのか』


4歳の息子を亡くした難民の男性が、著者の山本美香さんに言う。
「こんな遠くまで来てくれてありがとう。世界中のだれも私たちのことなど知らないと思っていた。忘れられていると思っていた」
ありがとう、ありがとうと涙を流す姿に大きな衝撃を受けました。
直前まで、山本さんは悩んでいた。若手ジャーナリストとして紛争地ではたらく医師や看護師たちを取材し、「なんてすばらしい仕事だろう」と感動し、そして自らの「ジャーナリスト」という職業をちっぽけな存在だと感じるようになったのだ。そんなときに出会った男性の言葉が、彼女の気持ちを変える。
私がこの場所に来たことにも意味はある。いいえ、意味あるものにしなければならない。たったいま目撃した出来事を世界中の人たちに知らせなければならない。
彼女のこの決意が、それから20年ほどして、彼女自身の命を奪うことになってしまう。2012年8月20日、山本さんはシリア内戦の取材中に銃撃を受け、搬送先の病院で死亡した。

本書の発行は2011年7月12日。亡くなる1年前である。中学生くらいを読者対象としているようで、文章はですます調、多くの漢字にルビがふられ、内容はシビアであるが、大人向けほど難解な話は出てこない。だからこそ胸を打つ部分もあるが、やはり物足りなさも感じる。ただ、我が子たちがいつの日か自然に手に取ってくれるよう、家の本棚には置いておきたい。