2019年3月18日

人間の弱さ、愚かさ、強さ、気高さを、上手く描いている 『氷壁』


山男である魚津の朴訥とした雰囲気、その魚津に惚れる小坂かおるの純粋さ、魚津の上司である常盤の熱情や優しさ、富豪ながらエンジニアとしての一本気をもつ八代。そんな好感のもてる登場人物らのなかにあって、ただ一人フラフラと若い男に惹かれてしまう芯のない八代の妻・美那子に苛立ってしまう。

ところが、この美那子の存在が、物語全体にピリッとした緊張をもたらし、面白さを引き立てるのだから不思議だ。表向きの主人公は山男の魚津であるが、井上靖が描きたかった本当の主役は、人間としての未熟さを抱えて生きる美那子だったのかもしれない。

2019年3月16日

アブない人には近づかない、それが最善の自衛

好意を寄せる女性がいる。
ところが、この女性には仲の良い男がいる。
だから、その男のことが憎たらしい。
そして、そんな男と仲良くしているその女性が憎たらしい。

こういう思考の流れの人、いるんじゃないかな。

「憎たらしい」という感情が、もともとの「好き」という気持ちを凌駕して、本人は純粋に「憎たらしい」としか感じられなくなってしまった状態。
ただ、そもそものキッカケは「好き」という感情。

攻撃される女性としては理由が分からず、
「本当は好きなんだろう」「好きの裏返しだ」
そう考えたり言われたりすることがあるかもしれない。

しかし。

加害者の中では「憎い」という強烈な感情が、そもそもの「好き」を焼き尽くしているので、残っているのは「純粋な憎悪」。

加害者も、もはや「なぜそんなに憎いのか」が分からなくなっている。ただ、「理由なく憎い」というのは脳内のおさまりが悪いので、なんだかんだと理由や難癖をつけることになる。

ある知人女性が向けられている攻撃を見てきて、こんなことを考えた。

こういう状況のとき、憎まれる女性と同じく、憎まれる男性にも身に覚えがない。だから、二人とも困惑する。そのいっぽう、加害者のほうは「憎む理由」を次から次へと後付けするので、本人なりに「筋の通った憎しみ」だと感じる。なんなら「正義は我にあり」とさえ思っているかもしれない。

こういう人に遭遇したら、とにかく関わらないことがベスト。なにをしても、なにを言っても、それは後付けで「憎む理由」にすり替えられてしまう。こういう人が相手だと、「関わらない」ことさえ「憎む理由」にされかねないが、それでも「関わらない」が最善だ。


<関連>
暴力への正しい向き合いかた 『暴力を知らせる直感の力 悲劇を回避する15の知恵』

2019年3月15日

B級映画の王道!? 『ヘンゼル&グレーテル』


約90分のコンパクトな映画で、テンポは良いはずなのに、なぜかちょっと退屈してしまうあたりがB級映画のご愛敬。

お菓子の家で有名なヘンゼルとグレーテルが成長し、魔女退治の賞金稼ぎになったという話。

兄のヘンゼルが、子どものころ魔女につかまったあと、お菓子を食べさせられ過ぎて糖尿病になっているという設定は吹いた。インスリン注射までしているし(笑) いつの時代だよ。ちなみに、インスリンの抽出に成功し製品化されたのは1922年ころである。

世界各国から悪い魔女が集まるシーンでは、下半身のない魔女や、シャム双生児と思われる魔女、小人症の魔女など、ポリティカルどうなの~、と思うような大胆な攻め口が良かった。

ただ、全体的には、よほど暇な人向け。

2019年3月14日

束縛のない好奇心は素晴らしいが、方向性のない好奇心は不毛! 『子どもは40000回質問する ~あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力~』


邦題が「育児本」を連想させるが、実際には「好奇心」についての良質なノンフィクション。もちろん「我が子の『好奇心』を伸ばす」ために有用なことも書いてはあるが、本題はもっと広く深く「好奇心」を突き詰めている。

「好奇心は個性ではなく状態」
「束縛のない好奇心は素晴らしいが、方向性のない好奇心は不毛」
「良質な好奇心のためには知識が重要」
「知識は知識を呼び寄せる」

こうしたことが目からウロコだったり、強く共感したりで、とても良い本だった。

2019年3月11日

ウイルスによる人類滅亡を描く 『復活の日』


ウイルスによる人類滅亡を描く、いわゆる「終末世界」もの。

舞台設定が1960年代で、社会情勢などやや古くさい点があるものの、人のこころの動きは50年経ったくらいで大きく変わることはなく、いま読んでも充分に真に迫る内容であった。

メインとなる登場人物はいるにはいるのだが、それぞれの描写はそう多くなく、感情移入することはあまりない。ではつまらないかというとそんなことはなく、個々の登場人物よりも状況に重きを置いて綿密に描いてあるので、世界滅亡のさなかに自分がいるかのような絶望的な感覚になれる。そんな少し独特な持ち味のある小説であった。