2019年7月16日

レビー小体型認知症の介護のための本2冊を読み比べてみた 『レビー小体型認知症がよくわかる本』 『レビー小体型認知症の介護がわかる本』


レビー小体型認知症の人の家族から、「どう対応したら良いのでしょうか?」と質問されることがある。これにうまく答えるのがなかなか難しい。というのも、「何についての対応か」が曖昧なことが多いからだ。幻視や妄想に対してなのか、パーキンソン症状についてなのか、あるいはその他の何かなのか。

多くの場合、家族がもっとも驚いている、あるいは理解に苦しんでいるのは幻視や妄想といった症状である。だから、きっと幻覚妄想への対応についての質問だろうと考え、「こうしてみたらどうでしょう」というのをいくつか提案する。ところが、これがすんなり受け容れられることは多くない。

これはレビー小体型認知症に限った話ではないが、医師の提案は、切羽詰まっていたり時間的に余裕がなかったりする家族にしてみれば、呑気すぎるか非現実的かに感じられるのだろう。残念ながら、幻覚や妄想のある患者への特効薬的な対応はないし、家族が介護の中心とならざるをえない日本の現状もすぐには変えようがない。

それでもなにか良い知恵はないものか、ということで、この2冊を読んでみた。医療者向けではないので、治療の詳しいことは書いていないが、介護する人たちが知りたいと思うことは網羅されているのではなかろうか。

どちらもレビー小体型認知症を発見した小阪憲司先生が関わった本なので、内容的には大差ない。大きな違いは、イラストと文字である。『よくわかる本』のほうは「イラスト図解」と銘打ってあるだけあってイラストが多い。また文章は縦書きと横書きが混在している。文字の大きさは普通の文庫と同じか、少し大きいくらい。『介護がわかるガイドブック』のほうは、すべて横書きで、文字が太く大きく、イラストは挿し絵程度にしかない。

認知症全般に言えることだが、介護するほうも高齢者か中年以降ということが多い。だから、文字の大きさや文章量は大事だ。小さな文字で書かれた大量の文章を読む時間も体力も気力も視力ないのだから。両者とも文章量は抑えぎみであるが、老老介護という人にはちょっと大変かもしれない。そういう人にどちらか一冊を勧めるとしたら、『介護がわかるガイドブック』かなぁ。

2019年7月12日

非専門医にやさしい糖尿病の本 『ここが知りたい! 糖尿病診療ハンドブック』


精神科に通う患者さんの中には、糖尿病を患っている人がけっこういる。統合失調症ではもともとの耐糖能に問題があるという説もあるし、抗精神病薬が影響していることもある。また、うつ病や躁うつ病での過食、一部の抗うつ薬による食欲増進も、糖尿病や耐糖能異常に関係する。

定期的な採血で糖尿病が見つかった人に内科受診を勧めても、「時間がない」「面倒くさい」「ここで(薬を)出して欲しい」と言われることが多い。このように、「精神科だけを受診している人」に対して、精神科医は身体面でも「かかりつけ医」の役割を担わなければいけないときが多々ある。そこで、糖尿病に関して良い本を探したところ本書を発見。

第1章で真っ先に、
実践的な糖尿病診療ハンドブックを目指したため、糖尿病の診断・分類・各種コントロールの指標・問診など通常の教科書に記載されている総論的な内容はあえて省略した。
と書いてある。この思いきりが素晴らしい。

登場する糖尿病治療薬については一般名だけでなく商品名も記載されている。これは非専門医にとっては非常にありがたい。日ごろ縁のない薬の一般名しか書いていないテキストは、高尚には見えるけれど、とっつきにくいものである。

内科一般医にとって有用なのはもちろんだが、外科系の医師にとっても『手術前後での血糖コントロール』と題して「周術期コントロールのエビデンス」「術前に把握すべきこと」「周術期血糖コントロールの実際」に分けて解説してあり、一読の価値があるのではなかろうか。

※上記レビューは「Ver.2」のもの。

2019年7月11日

より深い頭痛診療への良質な案内書 『迷わない! 見逃さない! 頭痛診療の極意』


精神科にかかりつけの患者さんには、慢性的な頭痛を訴える人が多い。そこで、彼らの頭痛を少しでも改善するべく、まずは読みやすそうな本書を手に入れた。

実は、妻にも時どき頭痛が起こる。本書の中身にそって、いくつか質問したところ、やはり妻の頭痛は片頭痛で間違いなさそうだが、緊張型頭痛も混じっているようである。この「混じっている」というのが本書のミソでもある。数多くの頭痛患者を診療した著者はこう書いている。
ほとんどすべての慢性頭痛の患者は片頭痛と筋収縮性頭痛(緊張型頭痛)をもっており、片頭痛の割合が多い患者が片頭痛で、半々くらいであればcombined headache、筋収縮性頭痛が主であれば筋収縮性頭痛の患者としているだけで、厳密にいえばほぼすべての患者はcombined headacheであると考えていた。そして、片頭痛と筋収縮性頭痛の特徴が混在した頭痛は多く存在し、厳密に分けることは不可能であると考えていた。
これは今でも間違いではないと考えているとのこと。「目からウロコ」だった。確かに臨床の現場でも、妻の頭痛でも、混在頭痛と考えればしっくりくることが多い。

これは買って正解だったと思う。より深い頭痛診療への案内書として良質である。本書を読んで、頭痛診療にますます興味が持てるようになったおかげで、『慢性頭痛の診療ガイドライン』まで買ってしまった。これはAmazonで購入できるが、中身を見るだけなら日本頭痛学会のホームページにPDFが置いてある。

最後に、著者が箇条書きで教示してくれている「Clinical pearls」を引用しておく。

・人生最悪の頭痛は危険な頭痛。
・「この患者さん、診たくない」と思ったら、二次性頭痛は絶対除外。
・高齢者の頭痛をみたら、側頭動脈炎を疑う。
・この患者は片頭痛か緊張型頭痛かと考えるのはやめて、片頭痛があるかどうか考えよ。
・入浴、運動、飲酒で、悪化すれば片頭痛、改善すれば緊張型。
・「これまでにも同じような頭痛がありましたか?」 緊急性の高い二次性頭痛の有無を見抜く。
・生理痛で頭が痛いのは、きっと月経関連片頭痛です。

これらの「Clinical pearls」それぞれに文章による解説があるので、興味をもった人はぜひ本書を読んでみて欲しい。


<関連書籍>
慢性頭痛の診療ガイドライン〈2013〉

2019年7月9日

読み通すには、それなりの努力が必要 『シャルコー神経学講義』


神経学(精神科ではなく、神経学である)に興味のない人には、まったくもって退屈な本だろう。多少興味があるくらいでも、読むのは苦労する。医学史的な本なので、現代の我々から見ると明らかに間違いというものも多い(注釈で訂正はしてある)。だから、関心が高い人でも、きちんと読み通すのには、それなりの精神的努力が必要である。

ただし、本書のあちこちにちりばめられたシャルコーの素晴らしい言葉は、現代の医学にも通底するところがあり、一部だけでも紹介しておきたい。

脊髄瘻(せきずいろう)の患者について。
この患者に施せる治療はほとんどないと言いましたが、それは椅子にふんぞり返って何もしなくて良いといことではない。私は脊髄瘻患者に、「病気を治せると自慢するような人には近寄らないように。そんな連中を信用してはいけません。ひどい目にあいますよ」と忠告します。
当時もいまも、代替医療の中にはトンデモないものが多い。100年以上たっても、状況はそう変わらないようだ。
脊髄瘻にかかってから何年もたっているのに、かかっていることを知らない患者もいます。そんな患者にはすぐに告知したりはしません。病気のことをまったく知らずに、死ぬまで元気に過ごすかもしれないのですから。
また、病気とうまくつきあって、比較的幸福に過ごす患者もいます。脊髄瘻であることを自分でも知っていて、経過を先取りして悩んだりはしない患者です。
これらは、現代のインフォームド・コンセント重視の考えからは外れるかもしれない。ただ、なんでもかんでも早期発見して侵襲的な治療を行なえば患者は幸せになるのか、という疑問を投げかけてくれる。

それから、患者の病気を「診断する」、あるいは新たな病気を「発見する」ことについて。
病気の治し方を学ぶには、病気の見つけ方を学ばねばならない。診断とは、治療における最高の切り札なのだから。
感情は、多くの神経疾患で病因となる重要な要素です。しかし、それが原因だとむやみに決めつけてはいけません。患者はしばしば自分で物語をつくってしまい、それは必ずしも事実を正しく解釈したものではないということを忘れないでください。
みなさんは次のような言い方を想像できますか?
「私は医師です。それは確かです。しかし不幸なことに、あなたには何もしてあげられません。あなたは、私たちが関われない、治療がまったくできないほうの病気にかかっているんです!」
諸君、それは違います。それでは責任を果たしたことにならない。批判をものともせずに観察を続けましょう。研究を続けましょう。これこそが、発見をするための最良の方法です。そしておそらく、努力をすることによって、将来私たちがこうした患者に下す判決は、今日下さざるを得なかった判決と同じではなくなるでしょう。
実際、シャルコーの講義から130年近くたった現在、先人たちのたゆまぬ努力のおかげで、多くの疾患の治療法が発見され、予後が改善されている。医学・医療に携わるものとして、襟を正すきっかけになるような本だった。

2019年7月8日

事実!? 妄想!? それともホラー!? 著者の戸惑いがにじみ出る文章に引き込まれヤキモキする…… 『幽霊のような子 恐怖をかかえた少女の物語』


選択性緘黙の話、かと思いきや、もっと複雑怪奇かつ深刻で……。

これまでに読んだトリイの本では、傷ついた子どもたちが成長し、羽ばたいていく様子が描かれ、読後には爽やかな気持ちになったのだが……。本書は最後の最後までスッキリといかないままだった。読みながら、これはホラー小説なのかと思うようなところも多々あった。

とても面白かったが、多くの人に手放しで勧められるような本ではない。