2019年4月30日

献身、忍耐、独創のトリイ節が炸裂! 『ヴィーナスという子 存在を忘れられた少女の物語』


トリイ・ヘイデンの本は非常に有名だが、これまで「分厚い、タイトルが胡散臭い、内容が重すぎそう』ということで敬遠してきた。少し前、たまたま『よその子 見放された子どもたちの物語』という本を手に入れて読んだところ、一気にファンになり、彼女の本すべてを購入、積ん読として所持している。

今回、そのうちの一冊を手にとって読んだ。

やはりとても面白く、感動的で、トリイの考えや行動に共感したり、ときには「それは違うんじゃないのかな」と思ったりもしながら、彼女の献身的で忍耐強く独創的なケアに胸を打たれた。そして、大人か子どもかに関係なく、人と人の出会いと相互反応が、こうも各人を成長させるのかと嬉しくなった。

俺も、だれかにとっての良いキッカケでありたい。そう思った。

2019年4月26日

もの足りない…… 『ナイト・アンド・デイ』


キャメロン・ディアスの可愛らしい演技に、トム・クルーズの少しすっとぼけた感じがマッチしたスパイ・アクション・コメディ。
派手さはあまりなく、謎解きもなく、サラリサラリと進んでいくので、物足りなさを感じた。星3つ。暇な人が観れば良いかな。

2019年4月25日

獣医志望の人は必読! 畜産獣医のやりがいと大変さを、ユーモラスに暖かく綴る 『ヘリオット先生奮戦記』


新米獣医の著者ヘリオットが、師匠(といっても6歳上)のファーノン先生やその弟のトリスタン、農家の人たちや動物たちとの触れ合いと悲喜こもごもを、ユーモラスに、ときに少し感動をまじえて、暖かな筆致で綴られる。ちょっとしたトラブルも起きるのだが、読んでいていやな気持ちにならないのが良い。きっと著者の人柄ゆえだろう。

中高生で獣医を目指している人なら、一読しておいて損はないはずだ。畜産関係の獣医師の大変さ、それからそれに伴うやりがいは、ヘリオット先生が大学卒業したばかりのころ(1937年)と現在とで、そう大きく変わらないようだから(畜産獣医の友人2名からの話による)。

2019年4月23日

認知症と自動車免許についての雑感

池袋の事故で、高齢者の免許返納についての話が盛り上がっている。しかし、高齢者が免許返納したら安心、というわけではない。

認知症で、免許返納したことを忘れて、何度も運転してしまう人もいるからだ。
だから、認知症の場合は、返納だけでなく「運転できない環境」作りが大切である。

よくやるのは鍵隠しで、それなりに有効だが、なかには怒り出す人もいる。
「鍵はどこだ?」と聞かれて「乗せられない」「渡せ!」と押し問答するのではなく、「一緒に探そう」と言って、本人が「運転の必要な用事」を忘れるか諦めるまでの時間稼ぎをするほうが良い。

ある家族はガソリンを空にした「捨て車」を置いていた。認知症の人が何かの用事を思い立ち、「運転しよう」と車に乗っても、エンジンがかからず奮闘するうち「何かの用事」は忘れてしまい、本人のなかで「運転の必要がなくなる」というのが、この「捨て車」作戦だ。

一番厄介なのは、運転に必要な認知・判断・操作の能力は明らかに衰えているのに、鍵を隠して「一緒に探そう」や「捨て車」作戦が通じるほどには認知症が進んでいない場合である。こういう状況で困り果てている家族は非常に多いのではなかろうか。

「車を手放す」という方法は究極の手段という気もするが、同居世帯で車をゼロにできない場合には難しいだろう。そして、せっかく車を手放したのに、隣の家の鍵つけっぱなしの車に乗って行ってしまった、というケースも経験した(へき地病院時代)。このケースの場合、認知症は前頭側頭型であった。

2019年4月22日

陳腐なタイトルと品のない表紙だからって読まないのはもったいない!! 『残酷すぎる成功法則』


陳腐なタイトル。
品のない表紙。

読書慣れした人なら、もうこれだけで読む気が失せるのではなかろうか。

ところが、である。

本書は中身が非常に素晴らしいのだ。
タイトルと表紙にだまされてスルーするのはもったいない!!

特に印象的かつ今後の役に立てたいのは、幸福の測定基準という考えかた。人が幸福だと感じるには、次の四つが必須要素であるとのこと。
  1.  幸福感 人生から喜びと満足感を得ていること
  2.  達成感 何らかの業績でほかに抜きんでていること
  3.  存在意義 身近な人びとに、ポジティブな影響を及ぼしていること
  4.  育成 自分の価値観や業績によって、誰かの未来の成功を助けていること
これらを「ビッグ・フォー」(幸福の四要素)と呼ぶ。そして、ビッグ・フォーにつながる行動が、それぞれ以下の4つだ。
  1. 幸福感=楽しむ
  2. 達成感=目標を達成する
  3. 存在意義=他者の役に立つ
  4. 育成=伝える
この4つをバランスよく達成することが理想である。ただ、4つすべてがゼロからのスタートというわけではなく、現時点で努力せずともある程度は達成している要素があるだろう。1が自然にできている人は、2、3、4を、2ができている人は1、3、4を、という具合に、幸福度を高めるためにこれから力を入れていくべきところが人によって違ってくる。

また、名著『選択の科学』でも取りあげられていた話題ではあるが、選択について本書から引用する。
私たちは選択権を持つことが好きだ。しかし選択をすることは嫌いだ。選択肢があることは、可能性を意味するが、選択することは、その可能性を失うことを意味する。そして選択肢が多いほど、後悔する機会も増えることになる。
それから、毎日の習慣としたいのが一日の終わりかた。
配偶者との口論にしろ、ハリウッド映画のラストシーンにしろ、肝心なのはその終わり方だ。ということで、少々時間を割いても、一日を良い気分で終えよう。職場を出る直前の状況は、自分の仕事に対するあなたの気持ちに大きく響くからだ。
明日やるべきことを書きとめると、脳が落ち着き、リラックスできるという。神経科学者のダニエル・J・レビティンは次のように説明する。あなたが何かを気にかけていると、それを忘れてしまうことを灰白質が恐れ、「リハーサルループ」と呼ばれる脳の一群の領域を活動させる。するとあなたは延々と気にし続ける。終業前に考えを書きとめ、明日の計画を練っておくことで、こうした脳活動のスイッチを切ることができる。

2019年4月18日

中だるみが厳しい…… 『心の昏き川』


上巻の感想。
クーンツらしい頭のイカれた殺人嗜好者が出てきて、その点では相変わらず面白い。悪党みんなイカれてやがる。ただ、少し間延びしている感がある。下巻での巻き返しはあるのか。

下巻まで読み終えての感想。
途中途中、かなり中だるみしてしまった。珍しく「著者あとがき」があり、全体を貫くテーマについて語られる。そのテーマは確かにしっかりしているし、ストーリーも面白いし、出てくるキャラたちも魅力的なのだが、どうしても中だるみが足を引っ張ってしまい、本としての面白さは半減している。

残念。

2019年4月15日

タイトルは煽り気味だが、目新しさはない、つまりわりとスタンダード 『あなたが太っているのは、栄養不足のせい 慈恵医大病院栄養士の正しくヤセる食べ方』


タイトルはちょっと過激で煽り気味だが、慈恵医大の栄養士さんが監修した本だけあって、斬新だったり特殊だったりということはなく、非常にスタンダードな内容だった。

食事によるダイエットに特別に気をつかっているわけではないが、日々の食生活の参考になればとザッと読み。

どんなに身体に良くても、面倒くさいものは日々の生活に取り入れられない。これまでいろいろ見てきて、取り入れているのは無塩ミックスナッツと乳酸菌。本書を読んで生活導入を決めたのが大麦。サバの水煮缶詰めも手軽で良さそう。缶詰めは多いと荷物になるので、買い物は妻に任せず、休みの日に俺が行くべきだろうなぁ。

2019年4月12日

斬新で、新鮮だったのに失速してしまった大作 『ヒトごろし』


京極夏彦が描く土方歳三。さて、どんな人間活劇になるのやら、期待に胸を膨らませながら読み始めた。

これまでの新選組小説とはまったく違う土方歳三で、生まれついての殺人狂である。ただし、殺人が「通常は認められない」ということを重々承知している。「だったら殺人が認められる状況を創り出そう」というのが、本書の主人公・土方歳三の考えかたである。

沖田総司もまた、これまでの沖田像とはまったく別人だ。沖田も土方と同じく殺人狂であるが、こちらのほうがより悪質というか、不気味というか、ポジティブな感情を抱きにくいキャラクタである。

物語の序盤では、土方が内面を延々と一人語りするのだが、そういうグダグダした感じも含めて新鮮で良かった。ところが、半ばを過ぎて、幕府が大政奉還したあたりから、だんだんと史実の説明に紙幅をとられ、読むのが退屈になった。序盤であれほど無口だった土方歳三なのに、なぜかベラベラと喋るようになり、キャラがぶれたなと苦笑してしまった。そして、このころになると各章を締める台詞「土方歳三だーー」が陳腐にさえ感じてくる。さらに、脇役の生臭坊主は登場する必要があったとは思えず、存在も語りもとってつけた感が否めない。

斬新さ、新鮮さに期待感が大きかっただけに、勢いの殺がれた終盤は惰性で読むしかないありさまだった。ちょっと残念。

2019年4月11日

大人も子どもも楽しめる! 『リメンバー・ミー』


手放しで称賛。

上映時間の長さ、テンポ、過不足ない説明、映像美、音楽、そしてストーリーとテーマ。どれをとってもよく練ってあり、さすがピクサーと唸ってしまった。

CG映画は進化しすぎて、『ファインディング・ニモ』のあたりから「いかにCGらしさを残すか」ということも重要になっているのだとか。少し前までなら、ものすごい映像も「どうせCGでしょ」と言われていたのが、いまやCGは「どうせ実写でしょ」とさえ言われるほどなのだ。

またCG映画は俳優を用いた実写の映画と違って、編集のときにシーンをカットすることをほとんどしない。一つのシーンを創るのに手間も時間も金もかなりかかるので、CG制作前に入念に作り込んでおくのだ。

そういうことを知ってからCG映画を観ると、その面白さがなお引き立つかもしれない。

2019年4月9日

アルコールや違法薬物、向精神薬依存の怖さをシンプルに表現した素晴らしいアニメ!


アルコールや違法薬物、向精神薬依存(※)の怖さをシンプルに表現してあり、とても分かりやすくて素晴らしいと思うので紹介。

※向精神薬については、あくまでも「依存」に陥った人の場合。治療上の必要があって内服している人は該当しない。

2019年4月8日

玉石混交の当事者エッセイだが、治療者は一読して損はなし! 『上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白』


小田嶋さんはTwitterで頓珍漢なツイートをすることも多い(@tako_ashi)が、本書は「アルコール依存症の当事者が書いた本」として読む価値がある。

ただし、あくまで「当事者が書いたエッセイ」であり、医療・医学とは一線を画す。治療者としての治療や、当事者としての生きかたのヒントにはなるが、あまり知識のない当事者や家族がまるっと鵜呑みにするのは良くない。

著者の主治医の言葉がイイところを突いている。
これも先生の言っていたことなんだけど、「ある中さんっていうのは、旅行に行くのでも、テレビを観るのでも、あるいは音楽を聴くのでも、全部酒ありきなんだ」と。だから、音楽を楽しんでいるつもりなのかもしれないけれど、酒の肴として音楽を享受している。そういうところを改めないといけないから、これは、飲まないで聴く音楽の楽しみ方を自分で考えないといけないよ、みたいなことを言われました。
俺自身、旅行に行くのは美味しい酒が楽しみで、テレビは観ないが映画は酒を飲みながら、音楽も「ジャズの生演奏を聴きたいな、酒でも飲みながら」といったぐあいに、なんでも「酒ありき」「酒の肴として」という思考に陥っていた。非常に納得のいく話である。

また、著者が断酒生活をダイエットと比較して語るところも大いに頷けるものであった。
減量で厄介なのは、食べるのを我慢すると必ず痩せるわけなんだけど、酒と一緒で、何かを我慢している人生って、本当の人生じゃないということです。
少なくとも主観的には、減量中の人生はニセモノの人生です。
(中略)
とにかく四六時中カロリーを意識しつつ、「俺は我慢してる」ということを常に自覚しながら日々を暮らしていく生き方は、あまりにもくだらない。
十キロ減を達成した瞬間に、自分はいざとなったら十キロ痩せられる、ということが立証されるでしょ。その立証の瞬間に、今までしてきたくだらない我慢にうんざりしてしまい、しばらく好きなものを食べようというマインドセッティングに切り替わるわけです。でもって、そうするとちゃんと太るんです。つまり、そういう意味で、難しいのは、痩せている間にずっと我慢してやっていた食べ方を、痩せた以後もごく自然に続けていけるような人生観を発明して、その人生観を自分の中に定着させることです。
「我慢している」という設定だと、一生我慢することになります。
(中略)
酒をやめるのも、単純に「オレは酒を我慢しているんだ」って話だと減量と一緒で半年しかもたないはずです。そうじゃなくて「酒がない代わりにオレはこれを始めたぞ」と、酒以外の何かで、自分の人生を再構築するプランニングは再発明することですよね。
いささか長い引用になってしまったが、それくらいこの部分に関しては強く賛同する。

玉石混交のエッセイだが、治療者は一読しておいて損はないだろう。

2019年4月5日

今シーズンの映画ドラえもんを絶賛する人には読まれたくないレビュー 『映画ドラえもん のび太の月面探査記』

妻と小1長女、4歳次女、2歳三女の5人で観に行った。

ちまたの評判はけっこう良いが、俺も妻も「???」。

脚本は小説家の辻村深月。ネームバリューがありすぎて、映画に詳しい人がアドバイスできなかったのかなという印象。

映画は「省略の芸術」だ。本作は詰め込みすぎて間延びしていて、映画館では飽きた様子の子どももちらほらいた。子ども向けの映画で1時間51分はちょっとね……。

映画がDVDになるときノーカット版が出ることもあり、それを観ると、いかに劇場版がギリギリまで削っているかが分かる。そして、たいていの場合、劇場版が断然面白い。

ノーカット版は、劇場版でハマった人が趣味で観るのには良いが、ただ映画を楽しむという目的なら、間延びしない劇場版を勧める。

たとえば『ニュー・シネマ・パラダイス』。イタリアで上映された「オリジナル版」が155分。これは興行成績が振るわず、123分に短縮して国際公開すると大成功した。この名作を観ようとレンタル屋に行くと、173分のディレクターズカット版しか置いておらず、その間延び具合にゲンナリしてしまった。

他にも劇場版より長いディレクターズカット版を観たものはいくつかあるが、あんなに好きな『ロード・オブ・ザ・リング』でさえ退屈してしまった。

いままで観たディレクターズカット版で面白かったのはロメロの『ゾンビ』だけ。これはきっと俺がかなりのゾンビ好きだからだろう。

さて『ドラえもん』の話に戻ると、今回は「お約束」なはずののび太やジャイアンの活躍が非常に薄い。ダメっ子のび太やいじめっ子ジャイアンが、ピンチのときに見せる普段とは違う姿に胸打たれることが多いのだが、ちょっと拍子抜けしてしまうくらいに「いつもの彼ら」の枠を出ていない。

俺は少し期待しすぎてしまったようだ。

子どもらは「ドラえもん」というだけで楽しかったらしい。本当は星1つだが、子どもらに免じて1点をプラスしておく。

2019年4月4日

阪急ブレーブスと北朝鮮 『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』


かつてあったプロ野球チーム「阪急ブレーブス」と北朝鮮がメインテーマとなったノスタルジック・ファンタジー小説。

著者は放送作家というだけあって、文章は読みやすく、展開も飽きさせないし、充分に面白かったのだが、Amazonレビューの高評価ほどではないと感じた。

2019年4月2日

読む人たちの写真集 『読む時間』


アンドレ・ケルテスが、世界のあちこちで撮影した「読む人」の姿を集めた写真集。
そこに写っているのは読むことに没頭している人たちで、それはつまり、本が好きな俺の姿であり、あなたの姿でもある。

2019年4月1日

娘たちが20歳になったら読ませたい!! 『人生は20代で決まる』


この本に20歳前後で出会えた人は幸せだ。
せめて30歳までには読んで欲しい。
そんなことを書いている43歳の俺も、読んで良かった。
もちろん娘たちにも、20歳になったら読ませたい。

仕事や学業について、かなり手厳しいことも書いてある。そこだけ切り取れば、職業差別、インテリの尊大さとさえ感じられるかもしれない。でも大丈夫。この本を読もうとする人なら、それが厳しくとも的を射た指摘であると理解できるはずだ。

人生は有限で、20代は10年間しかない。そして、その期間をどう生きるかは、あなたの未来を決める。無責任な「20代は好きなことをやれ!」といった本ではない。だからこそ、読む価値がある。