2019年8月30日
リーダー職にある人には、ぜひ読んでみて欲しい! 『野村ノート』
転勤のある医師は、野球の監督に似ている。
転勤先の病棟で働いているのはプロのスタッフたちである。野球と同じで、それぞれの技術やモチベーションには差があるし、全体としての雰囲気や風土がある。「治療」という勝負で「改善」という勝利をつかむため、医師はチームを自分の理想の形に創り変えていかなければならない。
そう考えると、野球監督の組織論からは得ることが多い。中でも野村克也は、野球そのものやチームを多角的に研究しているので、読んでいてナルホドと思うことが多い。
本書で印象に残ったのが、リーダーとして大切な3つの能力として挙げられた、問題分析能力、人間関係能力、未来創造能力である。特に最後の未来創造能力について語られており、これには非常に共感することが多かった。
ただし、創造の前には想像が必要。つまり、どういう病棟にしたいか、ということ。このビジョンがなければ、なにも創造なんてできないのだから。
リーダー職にある人には、ぜひ読んでみて欲しい。野球の細かい話も出てくるが、そのあたりは俺もすっ飛ばした。野球に興味がなくても得るものは多いはずだ。
2019年8月29日
こういう指導者に出会いたかった……、いや、こういう指導者になろう! 『コーチ』
映画化もされたベストセラー『マネー・ボール』の著者が、少年時代に師事した野球コーチ・フィッツについて語ったエッセイ。
短編小説一つ分くらいの分量ながら、そのまま映画化できるんじゃないかというくらい内容が濃く、読みながら映像が目に浮かぶようだった。
フィッツは、体罰こそしないものの、とにかく熱いコーチである。厳しすぎる、といっても過言ではないくらいだが、それでも子どもたちからは非常に信頼されている。ところが、今のアメリカでは、こんな熱い指導者は流行らないようだ。指導を受ける子どもたちはコーチに心酔していても、親のほうが黙っちゃいない。
「子どもがコーチからこんなことを言われた!!」
「なんでうちの子が試合に出られないんだ!?」
そんなことを学校の校長に直談判に来る親たちのせいで、フィッツは指導の軌道修正を余儀なくされる。
日本にはこういう熱血な指導者がまだいると思うが、それも稀少種となりつつあるのではないだろうか。
俺の場合、スポーツではないけれど、高校時代の英語と数学の教師がスーパー・スパルタだった。
その当時、その先生たちに俺は心酔したか?
しなかった。
現役で経済学部に合格して感謝したか?
しなかった。
では、今は?
やはり心酔はしていないが、感謝はしている。
あのスパルタがあったからこそ、経済学部・社会人でのまったく勉強しなかった5年間があっても医学部に入れたのだと思う。
医師になり10年目、いつの間にか指導する立場になった。俺は、熱い指導者になれるだろうか……? いや、なれるよう心がけよう!!
2019年8月27日
精神科とプロ野球の意外な共通点!? 『マネー・ボール』
数年前に、なにげなくプロ野球のリーグ成績を見ていると、得失点差、防御率、盗塁数など見比べて、1位で良いはずなのに2位になっている日ハム、1位を走る西武という不思議さが面白かった。
プロ野球パ・リーグの順位表が面白い
プロ野球の優勝は、チームの勝率で決まる。だから、たとえ1点しかとれなくても勝てば良いし、負ける時にはいくら点をとられても1敗にしかならない。ということは、例えば、『勝つ時は「1対0」と地味だが、負ける時には10点以上とられてボロ負け』という見栄えのしないチームでも、優勝する可能性があるということだ。
ボロ勝ちと惜敗を繰り返し、一見すると強そうなのに優勝できないチームがあるかと思えば、辛勝かボロ負けばかりで弱そうに見えても優勝するチームがある。これはすごく刺激的なことだ。
実は、精神科診療でも似たようなところがある。一人の患者を相手にした毎回の診察を試合と考えた時、「ボロ勝ち惜敗型」で診療が上手くいっているように見えても治療できないことがあるし、「辛勝ボロ負け型」で見栄えのしない診療でも最終結果は良好ということもある。
例え話に過ぎないので、現実にはもっといろいろな要素が関係するが、こういう視点を持てるようになるし、プロ野球のデータというのは見ていて面白いものだ。
本書は上記のような貧相な考察ではなく、もっと膨大なデータを元にしたチーム補強のルポである。メジャーリーグの貧乏チームであるアスレチックスが、いかにしてチームを安く補強して勝ち続けるのかを、ゼネラルマネジャーの人物像や考え方を中心にして、時に選手にもスポットライトを当てながら描いてある。
メジャーリーグという華やかな舞台には、光もあれば影もある。いやむしろ、どちらかというと影のほうが多いのかもしれない。そんな世界を見事に切り取って見せた本書は、多くの人に推薦したくなる本だった。
プロ野球パ・リーグの順位表が面白い
プロ野球の優勝は、チームの勝率で決まる。だから、たとえ1点しかとれなくても勝てば良いし、負ける時にはいくら点をとられても1敗にしかならない。ということは、例えば、『勝つ時は「1対0」と地味だが、負ける時には10点以上とられてボロ負け』という見栄えのしないチームでも、優勝する可能性があるということだ。
ボロ勝ちと惜敗を繰り返し、一見すると強そうなのに優勝できないチームがあるかと思えば、辛勝かボロ負けばかりで弱そうに見えても優勝するチームがある。これはすごく刺激的なことだ。
実は、精神科診療でも似たようなところがある。一人の患者を相手にした毎回の診察を試合と考えた時、「ボロ勝ち惜敗型」で診療が上手くいっているように見えても治療できないことがあるし、「辛勝ボロ負け型」で見栄えのしない診療でも最終結果は良好ということもある。
例え話に過ぎないので、現実にはもっといろいろな要素が関係するが、こういう視点を持てるようになるし、プロ野球のデータというのは見ていて面白いものだ。
本書は上記のような貧相な考察ではなく、もっと膨大なデータを元にしたチーム補強のルポである。メジャーリーグの貧乏チームであるアスレチックスが、いかにしてチームを安く補強して勝ち続けるのかを、ゼネラルマネジャーの人物像や考え方を中心にして、時に選手にもスポットライトを当てながら描いてある。
メジャーリーグという華やかな舞台には、光もあれば影もある。いやむしろ、どちらかというと影のほうが多いのかもしれない。そんな世界を見事に切り取って見せた本書は、多くの人に推薦したくなる本だった。
2019年8月26日
現時点で安心できる主治医がいて、精神科にまつわる笑い話を読んでみたいという人にだけお勧めできる…… 『いとしの精神科 患者も医者もみんなヘン!』
一時間もかからずに、さらさらっと読んだ。
この作者の記述からのみ判断すれば、作者の「うつ病」という診断は間違っている。ということは、処方された薬では改善しないどころか、不安定さを増悪させる恐れが高いし、読んだ限りでは実際にそうなっているようだ。
誤診に基づく精神科治療を受けた患者が漫画家だったので、「精神科領域に確かに存在する負の部分」が面白おかしく表に出たという感じ。とはいえ、この作者個人の体験を全国の精神科すべてに当てはめ考えてしまうのは危険だ。これを読んで精神科にかかるのをためらう人がいたら、それはもったいない。
現時点で安心できる主治医がいて、精神科にまつわる笑い話を読んでみたいという人にはお勧めかな。きっと、「ああ、こんな医者じゃなくて良かった!」と、自分の主治医への信頼感も増すことだろう。
2019年8月19日
脳卒中や外傷後の高次脳機能障害でも、脳機能は少しずつ学習する 『壊れた脳 生存する知』
脳出血によって高次脳機能障害になってしまった著者が、自らの体験を表現豊かに、そしてユーモラスに語った本。
著者は整形外科医で、3度の脳出血の後も試行錯誤しながら自己リハビリに取り組み、ついにIQは100以上になったとのこと。おそらく発症前のIQは相当に高かったのだろうが、人間の能力はIQだけでは語れない。著者の山田先生の場合、IQ以上に人間性、ユーモア精神、根気や根性に恵まれているように見える。また、生まれ持った運というものもあるのだろう。3回も脳出血を起こして医師を続けるというのは、並大抵のことではないはずだ。
脳卒中(脳出血や脳梗塞)後の脳機能は、非常にゆっくりではあるが確実に回復する。実際には「回復」というより「学習」というほうが適切かもしれない。例えるなら、高速道路が寸断された後に下道でたどり着く方法を見つけるようなものだ。遠回りで時間もかかるけれど、目的地にはたどり着く。
これまで精神科医として実際に高次脳機能障害の患者を数名みたが、全員が1年後、2年後には多かれ少なかれ機能改善していた。このことは、新規の患者さんや家族には必ず伝え、常に希望を処方するようにしている。
以前、こんなことがあった。くも膜下出血を発症した若い人が、発症からまだ4ヶ月しか経っていないのに、身体科の主治医の指示で知能検査を受けた。当然、結果はひどく悪い。それが挫折感、屈辱感、敗北感といったものを与えてしまったのか、その人は引きこもって生活し、数ヶ月後ついに重篤な自殺未遂をしてしまった。
こういうケースでの知能検査は、早くても発症から6ヶ月後、もし本人が急いでいないなら1年後でも良いと思う。身体の検査に痛みや被曝という侵襲性があるように、心の検査にも時に大きな侵襲性があるということは知っておいてもらいたい。
当時、心理士2名とも話し合い、身体科の医師から知能検査の指示があっても、状況によっては心理士から「もうしばらく待ったほうが良いです」と意見して良いし、場合によっては「精神科医から、脳卒中や頭部外傷後6ヶ月以内の知能検査は禁じられている」と答えても良いことにした。
ところで、本書の話に戻ると、ツイッターで時々お見かけする産婦人科の網野先生のお名前も出てきた。文面からするに、医学生時代からの友人、それも親友という仲なのだろう。はて、自分が同じ境遇になった時に物心両面で支えてくれそうな友人は……、あ、何人かいそうだな(笑)
著者は整形外科医で、3度の脳出血の後も試行錯誤しながら自己リハビリに取り組み、ついにIQは100以上になったとのこと。おそらく発症前のIQは相当に高かったのだろうが、人間の能力はIQだけでは語れない。著者の山田先生の場合、IQ以上に人間性、ユーモア精神、根気や根性に恵まれているように見える。また、生まれ持った運というものもあるのだろう。3回も脳出血を起こして医師を続けるというのは、並大抵のことではないはずだ。
脳卒中(脳出血や脳梗塞)後の脳機能は、非常にゆっくりではあるが確実に回復する。実際には「回復」というより「学習」というほうが適切かもしれない。例えるなら、高速道路が寸断された後に下道でたどり着く方法を見つけるようなものだ。遠回りで時間もかかるけれど、目的地にはたどり着く。
これまで精神科医として実際に高次脳機能障害の患者を数名みたが、全員が1年後、2年後には多かれ少なかれ機能改善していた。このことは、新規の患者さんや家族には必ず伝え、常に希望を処方するようにしている。
以前、こんなことがあった。くも膜下出血を発症した若い人が、発症からまだ4ヶ月しか経っていないのに、身体科の主治医の指示で知能検査を受けた。当然、結果はひどく悪い。それが挫折感、屈辱感、敗北感といったものを与えてしまったのか、その人は引きこもって生活し、数ヶ月後ついに重篤な自殺未遂をしてしまった。
こういうケースでの知能検査は、早くても発症から6ヶ月後、もし本人が急いでいないなら1年後でも良いと思う。身体の検査に痛みや被曝という侵襲性があるように、心の検査にも時に大きな侵襲性があるということは知っておいてもらいたい。
当時、心理士2名とも話し合い、身体科の医師から知能検査の指示があっても、状況によっては心理士から「もうしばらく待ったほうが良いです」と意見して良いし、場合によっては「精神科医から、脳卒中や頭部外傷後6ヶ月以内の知能検査は禁じられている」と答えても良いことにした。
ところで、本書の話に戻ると、ツイッターで時々お見かけする産婦人科の網野先生のお名前も出てきた。文面からするに、医学生時代からの友人、それも親友という仲なのだろう。はて、自分が同じ境遇になった時に物心両面で支えてくれそうな友人は……、あ、何人かいそうだな(笑)
2019年8月16日
多くのリーダーに読んで欲しい!! 『リーダーシップ』
臨床医が生涯にわたって学習すべき分野は三つある。一つ目は病気についてで、これは医師なら当然のことだ。二つ目は患者さんやスタッフとのコミュニケーションについて。そして三つ目が、リーダーシップである。
世の中には、生まれついてリーダーの素質を持つネイティブ・リーダーがいるが、そういう人は決して多くはない。まったくの憶測だが、おそらく20人から50人に1人くらいではないだろうか。これは人類が小集団で生活していた頃の名残りみたいなもので、これくらいの頻度でネイティブ・リーダーが生まれれば、50人から100人の小集団において長期にわたる「リーダー不在」がないはずだという、まったくの推測に過ぎない。
そんなネイティブ・リーダーであっても、現代の多様化した社会構造においては、素質を活かせるとは限らない。むしろその逆に、リーダーの素質を持って生まれたわけではない大多数の人たちが、リーダーとしての立場に立たざるを得ないことのほうが多いだろう。医師も例外ではなく、恐らく、というより間違いなく、ほとんどの医師に生来のリーダーシップなど備わっていない。しかし、医師になった以上、本人が好むと好まざるとに関わらず、リーダーとして活動したり振る舞ったりしなければならない。だから、医師はリーダーシップを自ら積極的に学び、身につけなければいけない。自分のためでもあるが、それ以上にスタッフのため、チームのためであり、それは結局のところ、すべて患者さんのためである。
年に数冊は、こうしたリーダーシップ関連の本を読む。今回はニューヨークの元市長、ルドルフ・ジュリアーニの著書だ。多くの人がジュリアーニ市長の名前を聞いたことがあるのではなかろうか。それは、彼が9・11テロの時にニューヨーク市長だったからだろう。
本書ではジュリアーニのリーダーシップ論が、検事時代や市長在職中の逸話とともに語られる。アフガニスタンに対する考えや態度には一部賛成できない部分もあったが、リーダー論として非常にためになった。また、良質な翻訳で最初から最後までストレスなく読めた。
ジュリアーニ市長のエピソードを一つだけ紹介しておく。テロ後、世界各国の指導者たちがグラウンド・ゼロを訪れ、市長は彼らを案内した。多くの指導者が涙を浮かべたり、打ちひしがれたりしたが、豪華な金色のローブでやってきたサウジアラビアのアルワイード・ビン・タラル王子の態度にジュリアーニは違和感をおぼえた。
王子が薄笑いを浮かべていて、それが側近にまでおよんでいるように思えたのだ。現場を見て、心動かされたようすがないのは彼だけだった。不愉快ではあったが、「こっちが神経過敏になっているせいだろう」と思った。王子は被災者のための基金に1000万ドル(10億円前後)の寄付をしたが、その時に配布したプレスリリースに、
「アメリカ合衆国政府は中東政策を見直し、パレスチナの主張に対し、もっとバランスの取れたスタンスを取るべきである」
といった声明も記されていた。テロの被災者に対する寄付金であるにも関わらず、こんな政治的なメッセージ、しかもアメリカにも責任の一端があるような書き方をされて……、そんな寄付金なんて受け取れるか!! ジュリアーニは熟慮の結果、この寄付をキッパリと断った。こんな大胆な決断を下せる政治家が日本にいるだろうか?
2019年8月14日
魔法ではなく知識で闇のものと対峙する「魔使い」の弟子トムの冒険 第3弾 『魔使いの秘密』
2019年8月9日
双極性障害の教科書 『双極性障害 第3版 病態の理解から治療戦略まで』
2019年8月8日
魔法ではなく知識で闇と戦う「魔使い」の物語 第2弾 『魔使いの呪い』
魔使いシリーズの2作目。
「魔」使いであって、「魔法」使いではない。主人公たちは「魔法」ではなく「知識」で魔物たちと戦うのだ。小学校高学年から中学生くらいなら楽しめる内容だが、ほんの少しだけ残酷描写があり、ダークファンタジーの部類に入るだろう。
物語は一人称「ぼく」で進められ、少しずつ少しずつ「魔使い」の周辺が明かされていく。読者は主人公と一緒にそれらを体験することになる。『ダレン・シャン』が好きと言う人にはお勧め。
2019年8月6日
コミュニケーション必須の職業の人にぜひとも読んで欲しい! 『不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か』
著者の米原万里はロシア語の通訳者である。本書は、彼女が通訳業として体験したエピソードや、そこから得られた言語にまつわる見解が、面白く読みやすく記されている。そして、意外なことに、精神科医にとって非常に参考になることが多かった。
考えてみると、精神科医は通訳者のような役割を求められることが多い。患者と家族の間に入り、患者の言い分を家族に、家族の気持ちを患者に、双方の立場や想いを汲み取りながら仲介して伝える。患者と看護師、看護師と医師、患者と他科の医師の間に入る場合もある。
通訳者とは単に「外国語が堪能な人」ではない。日本語も堪能でなければ勤まらない。著者の「母国語よりも巧みに第二言語を使いこなせる人はおらず、第二言語の技術は母国語を超えない」という主張は、まさにその通りだと思う。また、日本語と外国語が上手く話せるだけでなく、その外国語を使用する国の文化や考え方といったものにも通じていなければならない。
このように、双方の背景を把握しつつ、臨機応変で柔軟な対応を求められるのは、通訳も精神科医も同じである。それから、語彙力が求められるところも似ている。精神科医が患者について描写しようとするときには、自分の語彙力以上のことは表現できない。極端な話、統合失調症と診断した患者の様子を記載した場合、どの患者のカルテを見ても同じような文言が並んでいて見分けがつかないということもある。
ここまでで、精神科医と通訳が似ていると書いてきたが、おそらく看護師や作業療法士だって、主治医と患者の間で、あるいは患者と患者の間で、通訳業のようなことをしているはずだ。同じように、それが仕事かどうかに関わりなく、二者関係の間に立つ全ての人に、通訳業と同じような技術や能力が求められるだろう。
だから、本書はただの「通訳おもしろエピソード集」ではなく、二者の間を取り持つ際の技術や心構えに関する教本と言える。そして、これほど優れた教本はそう多くない。得るところが非常に多く、たくさんの人に読んで欲しい本である。
2019年8月5日
自閉症の当事者にも、家族にも、援助者にも読んでみて欲しいお勧めの本 『自閉症スペクトラムのある人が才能を活かすための人間関係10のルール』
著者のテンプル・グランディンは自閉症で、コロラド州立大学で教鞭をとっている。彼女は家畜施設の設計をする動物学者としても有名で、アメリカの家畜施設のかなりの部分に彼女の設計が取り入れられているそうだ。
もともと彼女のことはテレビのドキュメンタリーで観たことがあり、以前から興味があった。自分の全身を締めつける道具を開発して、そこに挟まっていると落ち着くのだと言っている姿が印象的だった。
もう一人のショーン・バロンも自閉症である。本書では、まずテンプルとショーンがそれぞれの生い立ちを語るところから始まる。そして、その冒頭だけで「自閉症は多様である」ということがよく分かる。それから各ルールについて、互いの考え方・感じ方を述べてある。
2800円とやや高価だが、ページ数は430ページにもおよぶ厚めの重い本で、分量からすると割高感はない。また、使われている言葉は平易で、翻訳も読みやすく、苦労なく読み終えることができ、充分に参考になることを考えると、質的にも相応の値段と言える。
参考までに「10のルール」を引用しておく。ただし、実際に中身を読まないと、きちんと理解することは難しいだろう。
- ルールは絶対ではない。状況と人によりけりである。
- 大きな目でみれば、すべてのことが等しく重要なわけではない。
- 人は誰でも間違いを犯す。一度の失敗ですべてが台無しになるわけではない。
- 正直と社交辞令とを使い分ける。
- 礼儀正しさはどんな場面にも通用する。
- やさしくしてくれる人がみな友人とはかぎらない。
- 人は、公の場と私的な場とでは違う行動をとる。
- 何が人の気分を害するかをわきまえる。
- 「とけ込む」とは、おおよそとけ込んでいるように見えること。
- 自分の行動には責任をとらなければならない。
2019年8月2日
痴漢、逃がすまじ、許すまじ、滅びるべし! 『男が痴漢になる理由』
ツイッターで「痴漢を安全ピンで撃退」が話題になり、俺もあれこれ意見や注意喚起やアイデアの提案をするうち、もっと痴漢について知るべきだと感じたので読んだ。
痴漢する連中の頭のなかがいかにズレているかがよく分かったし、そういう連中への「治療」がどうあるべきかも理解できた。
しかし、である。
精神科医として痴漢の治療に携われと命じられたとき、冷静に対応できるかには自信がない。いやむしろ、冷淡になってしまう気がする。未来の被害を減らすことを最優先に考えるなら、冷静な治療こそ「被害者のため」になるはずなのに、感情が邪魔をしてしまう……。
痴漢、滅びるべし。
ところで、本書は「依存症」についての勉強にもなるので、依存症関連で仕事している人は一読して損はないだろう。
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