2013年2月25日

障害があると分かっている子どもを生むのは親のエゴ?

「障害があると分かっている子どもを生むのは親のエゴだ」

こういう意見はネット上ではよく見かけるし、現実社会でもたまに聞く。ある人が、こんなことを書いていた。

『ある障害者は「自分は生まれたくなかった」と言っていた。彼は親のエゴの犠牲者ではないか』

ちょっと待って。

「障害者本人が生んで欲しくなかったと言うのだから、そんな彼を生んだのは親のエゴだ」

というのは正しいのだろうか?

心身ともに障害がなくても、「生んで欲しくなかった」と言う人はたくさんいる。そういう人が生まれたのも親のエゴなのだろうか。逆に、障害があっても、「生まれてきて良かった」と思う人だってたくさんいる。彼らは親のエゴに打ち勝った人たちなのだろうか。いや、きっとどちらも違う。

生まれてきて良かったか悪かったか、その感想は本人にしか分からないし、感じられないものだ。ただ、考えてみるまでもなく、健常者の親にしろ障害者の親にしろ、全ての親がエゴは持っている。

子どもを授かったと知れば、まず「男の子が良い」「女の子が欲しい」というところから始まる。途中でもし障害があるかもしれない、あるいは早産や流産をするかもしれないとなれば、
「男の子でも女の子でも良い、五体満足で生まれてきて欲しい」
となる。さらに不安が増せば、
「五体満足なんて望まない、元気に泣いて生まれて欲しい」
となるだろうし、そしてついには、
「どんな子でも良い、障害があっても良い、一日でも長く生きて欲しい」
となっていく。親は親なりに、少しずつ、不安の中ですがる希望を変えていく。もちろん、途中で諦めたり、障害のある子なんか要らないと言ったりする親もいるだろう。ただ、こうした親の気持ちのどこからどこまでがエゴで、どこからがエゴじゃないのか、そんなラインはないはずだ。

すべての親が我が子に対して「元気に生まれてきて欲しい」と願う。結果的に、元気な子が生まれたらエゴではなく、障害を持つ子の親になったらエゴだと言われるなんて、どう考えても変だし、なにより悲しいじゃないか。


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4 件のコメント:

  1. はじめまして。生まれてくる子に障害者も健常者も無いと思うのは甘えかもしれないけど、私もある部分障害者、病気を足すともっと障害者。多分私の親は背負うものがあったと思います。私もありました。生まれてこなけりゃなんて生まれた以上解らない。いつお迎えが来るか解らない以上生まれた事に対する是非なんてわからない。生ある間は生きるべきで、そこに障害の有無は無いと思います。多分ですがある意味昔よりは生きやすいと思うし、場合によっては生きにくいかも知れない。堂々巡りですみません。

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    1. >匿名2013年2月25日 17:29さん
      堂々巡り、なっちゃいますよね。確かに生きやすくなった部分は多々あると思いますし。でもその逆もまたたくさんあるんだろうなとも思いますし。そして、「生ある間は生きるべき」というのに大賛成です。理屈じゃないんですよね、こういうのって。

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  2. 生まれて来る子供に障害があると分かって生むかどうか?我が家もこの問題に直面です。私はもう子供二人生んだので、もう生みませんが(笑)子供が自閉症スペクトラムという診断名がついて、調べてみると遺伝的要素もあると知り、子供への告知も込みで悩みます。遺伝だけでは無いにしろ、遺伝的要素として1つ提唱されているのも事実なので、これから子供は結婚とか出産とかで苦しむのかなぁ…と考えると親として胸が痛みます。

    個人的には個性的で職人肌な変わった人が大好きなので、子供達の診断名を障害とは思っていないです。世界の見え方感じ方が違うって人は誰でもですし。
    でも、精神疾患や今まで知らなかったような障害への知識が広まる事と理解が深まる事はイコールでは無いと思ってます。
    理解してくれる人もいれば差別される事もあるし、その両方ですね。

    私はマイペースな人は面白くて大好きなので、子供達には沢山子供生んで欲しいですけどね。

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    1. >ゆうさん
      知識があっても、それと差別解消とは別物というのはまったくその通りですね。差別や偏見が目の錯覚と似ているという話を書いたことがあります。
      http://psichiatra.blogspot.jp/2014/07/blog-post_8694.html

      ところで、自閉症スペクトラムと遺伝素因についてですが、我が従弟もそう診断がついています。また母の従兄は躁うつ病だし、お世話になっている先輩医師の従兄は統合失調症だそうです。人間ってちょっとたどれば精神疾患に行き当たるものですね。

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