2012年10月18日

これぞ狂気! 『封印されたアダルトビデオ』


俺はアダルト・ビデオを客として借りたことがない。「客として」というのは、経済学部生時代にビデオレンタル店でバイトしていて、営業時間が終了してからアダルトビデオを一、二本借りて帰っていたからだ。当時はまだVHSの時代で、バッグの中でビデオがかさばっていたことを思い出す。

それはともかく、本書である。なぜかAmazonで見つけてしまい、思わず買ってしまった。内容は面白いが、文章量は多くなくわりと短時間に読み終える。

封印されたAVが、その理由とともに紹介されている。封印されているので、当然観ることはできない、はずだ。著者がAV関係者を辿って観ることができたものもあるが、そうでないものもある。なかなか刺激的な話も多いが、読後感は決して良くない。いくつか紹介しよう。

「封印」といってまず思い浮かべるのが、呪い系だ。『封印された死者追悼AV』というものがあるのだが、その内容が非常に過激、というか罰あたりで、呪われて当然である。このAVのタイトルは『死ぬほどセックスしてみたかった。』で、1995年のもの。1994年、20歳のAV女優・大崎ひとみが、地元の群馬県で交通事故死した。そこで、AV監督のバクシーシ山下が、追悼ドキュメンタリーAVを撮ろうと思い立つ。その内容が凄まじい。撮影前、バクシーシ山下は言う。
「大崎さんは生きる喜び、SMを知らずに死んだ。今回の観念(註:AV男優でM専門の観念絵夢のこと)の役割は、そんな大崎さんにSMを教えてやることだ」
観念は最初意味が分からなかったが、詳細を知って衝撃を受ける。なんと、SMの対象が大崎さんの墓だったからだ。墓に到着して皆が気づくのだが、大崎さんの墓には大崎家先祖代々の人も眠っていた。しかし、監督の、
「うーん、仕方ないのかな」
という一言で撮影開始。豚肉の血を墓の上に垂らし、墓石を縄でグルグル巻いて縛りつけ、鞭で打ち、ロウソクも垂らす。観念絵夢もSM女優からムチで打たれながら叫んだ。
「どうだい、大崎さん! SMって、こんなに気持ちのいいもんなんだよ!」
狂気である。さてこの撮影の後どういうことが起こったか。それは敢えて詳しくは書くまい。知りたい人は本屋か図書館か、あるいは上記リンクから購入を。まぁ、呪われて当たり前だという気もするが、監督のバクシーシ山下は健在のようだ。

このバクシーシ山下、人肉を食べるAVも撮っていて、これも封印されている。この人肉とは、男優・観念絵夢の包茎を切除した皮と、AV女優の脂肪吸引した脂肪。どちらも想像しただけで吐き気がしそうなもので、バクシーシ山下の狂気っぷりが感じられる。しかし、言っていることには共感できるから不思議だ。彼はこう言う。
「まあ、セックス自体がタブーなわけじゃないですか。それがAVというカテゴリーの中に入ってしまうと、全然タブー感がない。それが麻痺しちゃうのが嫌だなっていうので、これもどうだ、あれもどうだ、みたいなところはありましたね。何かしら歪んだ部分を歪んだものとして考えないでいる人たちに対しての物言いかもしれませんね。セックスを映すのがOK。うんこを食べることすらOK。なら、人肉を食べてもOKだよね? そう思ってしまうんですよね。全部アブノーマルじゃないですか」
タブーへの挑戦は、歪んだものを歪んでいると認識できない人々へのメッセージ。
なんだか凄く良いことを言っているようなのに、そこはかとなくネジの緩みを感じさせる、まさにキワモノなAV監督だ。

『ハンディキャップをぶっとばせ』というアダルトビデオも封印されている。1994年の作品で、障害者男優を募集して撮られたもの。3人の男性が選ばれ、うち一人が手足が不自由なWさんだった。
「養護学校に入りました。そこでは、エッチな話とかすると、『やらしい』と言われて非難されました。セックスのことを考えるのはいけないことだと思いました。でも、興味があるので、AVや裏ビデオとかにはまりました」
障害者にとって女性と接することがいかにハードルが高いものであるか。その話からうかがい知ることができる。
Wさんは悶々とした日々を過ごしていた。このまま一生、女性と触れあうこともできず、童貞のまま過ごすのかと考えると、絶望的な気分に襲われる。
そんなとき、彼は「障害者男優募集」を見つけたのだ。
これだ! 彼は躊躇することなく募集の連絡先に電話をかけた。そして採用が決まり、念願の性行為の夢がかなうことになった。
他の男優は小人症と盲目の人。内容はAVというよりドキュメンタリーである、と著者は言う。セックスシーンはあるけれど、ヌキどころ(女性でも意味は分かるよね)がないのだ。実際、ビデオの中にはこんなナレーションが入っている。
「彼らは性をいやらしいことだと隠蔽してしまう社会の犠牲者です」
「厄介なのは、無意識の差別だと思います。身障者を差別していますと公言している人はいないと思います」
素晴らしい作品だと思うが、ビデ倫ではダメだと言われた。監督はビデ倫とケンカしつつ、出演した障害者男性陣に対してはこんな感想も持っている。
「出演する障害者の方々には、通常の男優さんとして出演してもらおうと思ったんですよ。ギャラを受け取ってビデオに映る限り、もう男優さんですからね。でも、本人たちは、女優を前にすると、もう仕事する気がなくなって、女、女、女って、コントロールができないんですよね。それから、彼らには甘えがあったんです。普段、彼らは、周囲からお世話されているんですよ。ですから、何でもかんでも自分のわがままが通ってしまうと思っていたんです」
この撮影を通じて、安達(監督)は痛切に感じた。健常者と障害者は、お互いに「差別している」「差別されている」という事実を認識しなければ付き合えないのではないかと。
そうそう、最後にレイプもののAVを撮影する時によりリアルにするためバクシーシ山下がとった手法も書いてあって、思わず「なるほど!」と感心してしまった。 どういった内容だったのか、それはやっぱり本屋か図書館か(さすがに置いてないかw)、いや、やっぱり上記のリンクから買ってもらうのが一番良い(←重要)。

アダルトビデオ愛好家なら、一度は目を通しておいて損はない一冊!!(※俺はネットの無料動画派)

<関連>
セックスレスキュー
職業としてのAV女優
デフレ化するセックス

13 件のコメント:

  1. AVにドキュメンタリーを求めている人はいないと思われるんだけど、作り手が問題提起したり裏側を暴露するのはとても興味深いですね。
    タブーってのは少なからずどの業界でもあるのが当たり前だと思うし、そこが仕事の肝だったりするわけで。とかくAVに関しては色んな趣味趣向の人に向けて作られているので、日に日にタブーがタブーではなっていくのは何となくわかるような気がします^^
    レンタル店だったり販売店に踏み入れると多種多様なジャンルのモノが置いてあるんですもの。『こんなもので何で興奮するの?』っていうようなものから、思わず目を背けてしまうものまでw人間ってホント不思議なモンですね。

    っていっても、最近はオレもネット無料が主流ですw

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    1. >キム兄さん
      ほんと、ジャンルは多岐にわたっていますよね。学生時代のバイトでは、返却されたアダルトビデオを戻しに行く時につらつら眺めていましたが、誰が見るんだこんなの、というのもたくさんありました。

      キム兄さんから教えてもらったサイトからたどり着いた海外サイトが俺の主戦場ですw

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  2. ししとう432012年10月19日 1:39

    この本は、私の街の図書館にあるので予約しました。
    ただ、いろんな本で読んだ、バクシーシ山下さんの談話やインタビューからは、やはり後味の悪さしか残らなかったのも事実です。
    一方、元AV女優&漫画家&メンヘラーの卯月妙子さんの「人間仮免中」は非常に良かったです。
    10年以上前の作の「企画モノ」があまりにもグロくて、部屋に置いておくのも汚らわしかったので、「人間仮免中」の評判が良いのにも関わらず、買うのを躊躇してましたが。
    いずれにせよ、「封印されたアダルトビデオ」の順番が回って来るのを楽しみ?にしたいです。

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    1. >ししとう43さん
      置いてあったんですか!? すごい!!
      俺もこの本は図書館に寄贈する予定なので、うちの島の図書館にもこの本が蔵書されることになりますがw

      『人間仮免中』『企画モノ』どちらも中古しかない上に高いですね……、プレミアついてるんでしょうかね……。バクシーシ山下の本は買ってみましたよ!

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  3. ししとう432012年10月22日 1:17

    『人間仮免中』は、アマゾンで新品が定価で売ってます。
    『企画モノ』は、私は昨年、中古を400円ほどで買い、あまりのグロさに辟易して、今年の春にやはり400円ほどで売りました。
    今は、『人間仮免中』のヒットでプレミアが付いて、数千円の値が付いてますね。
    今にすれば、大後悔ですが、あのグロさは部屋に置いておくのも汚らわしかったので、しかたなかったです。

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    1. >ししとう43さん
      勘違いでした! 人間仮免中はコミックなのに1000円超えかぁ高いなぁと思ったのでした。そして企画モノのほうをこそ読んでみたいなぁと。
      でも、そこまでグロいと言われると、やっぱり読むのも躊躇われますね……。

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    2. ししとう432012年10月22日 12:39

      「人間仮免中」は、330ページの大作ですから、あの値段かも。
      出版元のイーストプレスは、「失踪日記」で吾妻ひでおさんを蘇らせた、良心的出版社ですし。
      「封印されたアダルトビデオ」は、予約順が回って来ました。

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    3. >ししとう43さん
      おー、ついに!!
      仮免中は要検討にします。ちょうど都会へ行く機会もあるし、大型書店にあれば買うかも……です。

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    4. 「封印されたアダルトビデオ」を完読いたしました。
      観念絵夢さんについては、根本敬さんも雑誌で触れてられましたが、業界では大きな存在だったんですね。
      そして、やっぱりバッキーの事件。
      月刊「創」の連載も読んでましたが、やっぱりあの程度の実刑は当然、特に後ろで幕を引いて、知らんぷりしてた、社長も実刑でよかった。
      過酷な取り立ての金貸しの社長も、あんな感じなんだろうな。

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    5. >ししとう43さん
      バッキーの話はエグかったですね。俺はニュースでチラッとしか知らなかったので、ここまでひどいとは思っていませんでした。

      観念のぶっ飛んだ感じは、傍目に見る分には面白そうですが、あまり近づきたくはないなぁと思ってしまいました。

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  4. そういうとこいっちゃう人もいるんですねー。

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    1. >匿名2015年3月2日 19:49さん
      色々な人がいますね。

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  5. いますね~。
    びっくりしました。

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