2019年8月19日

脳卒中や外傷後の高次脳機能障害でも、脳機能は少しずつ学習する 『壊れた脳 生存する知』


脳出血によって高次脳機能障害になってしまった著者が、自らの体験を表現豊かに、そしてユーモラスに語った本。

著者は整形外科医で、3度の脳出血の後も試行錯誤しながら自己リハビリに取り組み、ついにIQは100以上になったとのこと。おそらく発症前のIQは相当に高かったのだろうが、人間の能力はIQだけでは語れない。著者の山田先生の場合、IQ以上に人間性、ユーモア精神、根気や根性に恵まれているように見える。また、生まれ持った運というものもあるのだろう。3回も脳出血を起こして医師を続けるというのは、並大抵のことではないはずだ。

脳卒中(脳出血や脳梗塞)後の脳機能は、非常にゆっくりではあるが確実に回復する。実際には「回復」というより「学習」というほうが適切かもしれない。例えるなら、高速道路が寸断された後に下道でたどり着く方法を見つけるようなものだ。遠回りで時間もかかるけれど、目的地にはたどり着く。

これまで精神科医として実際に高次脳機能障害の患者を数名みたが、全員が1年後、2年後には多かれ少なかれ機能改善していた。このことは、新規の患者さんや家族には必ず伝え、常に希望を処方するようにしている。

以前、こんなことがあった。くも膜下出血を発症した若い人が、発症からまだ4ヶ月しか経っていないのに、身体科の主治医の指示で知能検査を受けた。当然、結果はひどく悪い。それが挫折感、屈辱感、敗北感といったものを与えてしまったのか、その人は引きこもって生活し、数ヶ月後ついに重篤な自殺未遂をしてしまった。

こういうケースでの知能検査は、早くても発症から6ヶ月後、もし本人が急いでいないなら1年後でも良いと思う。身体の検査に痛みや被曝という侵襲性があるように、心の検査にも時に大きな侵襲性があるということは知っておいてもらいたい。

当時、心理士2名とも話し合い、身体科の医師から知能検査の指示があっても、状況によっては心理士から「もうしばらく待ったほうが良いです」と意見して良いし、場合によっては「精神科医から、脳卒中や頭部外傷後6ヶ月以内の知能検査は禁じられている」と答えても良いことにした。

ところで、本書の話に戻ると、ツイッターで時々お見かけする産婦人科の網野先生のお名前も出てきた。文面からするに、医学生時代からの友人、それも親友という仲なのだろう。はて、自分が同じ境遇になった時に物心両面で支えてくれそうな友人は……、あ、何人かいそうだな(笑)

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