2018年4月23日

患者本人にしてみれば、とても怖いと思う 『屋根裏に誰かいるんですよ。 都市伝説の精神病理』

「家の中に誰かがいる」
「知らない人が忍び込んできて悪さをする」
そんなことを訴える患者が時どきいる。

「冷蔵庫の野菜を新鮮なものに入れ替えられる」
「買い置きのゴミ袋を増やしてあった」
「床にこっそりホコリを置いて行く」
はた目には荒唐無稽に見えることを熱弁する姿が、おかしくも切ない。

そういった患者が薬を飲むとどうなるか。
「家の中に人がいるというのは、私の妄想だったみたいです」
となることはあまりない。それよりは、
「些細なことだし、もう気にしないことにしました」
と気持ちが緩やかになったり、
「最近は忍び込まれなくなりました」
そんな解釈をしてみたり、聞いていて微笑ましくなるようなことが多い。

そうしてしばらくすると、再び、
「先生、また家の中に人が……」
と言いだす。詳しく聴いてみると、案の定、薬をやめている。こういうことの繰り返しが精神科ではしばしば見られる。

そんな人たちと接することは、滑稽なようで切なくて、深刻なのに微笑ましい。彼らが上手くバランスをとる手伝いをすることは、医療者としてやり甲斐のある仕事である。


精神科医・春日武彦の本。一般の人が読んでも面白いと思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントへの返信を一時中止しています。
一部エントリでコメント欄に素晴らしいご意見をいただいており、閲覧者の参考にもなると思われるため、コメント欄そのものは残しております。
また、いただいたコメントはすべて読んでおります。