2018年6月5日

「依頼者から忘れ去られる」ことを嬉しく思う仕事人たちに肉薄したノンフィクション 『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』


親を失うと過去を失う。
配偶者を失うと現在を失う。
子を失うと未来を失う。

遺族は愛する人を亡くすのと同時に自分の一部も失うのだ。もう二度と取り返しはつかない。
本書は、海外で亡くなった日本人や、日本で亡くなった外国人のご遺体を、遺族のもとに届ける専門業者『エアハース・インターナショナル』に迫ったノンフィクションである。

ご遺体として日本に戻ってくる人の死因は、もちろん病気だけではない。むしろ事件・事故・災害がかなり多いのではなかろうか。ということは、ご遺体の損傷もあるだろうし、現地での司法・行政解剖の痕もあるだろう。こういう「その人が生きていたときにはなかった傷」を、エアハースの職員は可能な限りキレイにする。そのために、化粧だけでなく解剖学まで学んだ人もいる。時には腐敗臭のするご遺体から数センチという距離にまで顔を寄せ、生前の顔を取り戻すことに全精力を注ぐ。

テーマがテーマなだけに、「グロテスクだ」と忌避感を抱く人がいそうな描写もある。そういうのが極端に苦手な人は、読まないほうが良いかもしれない。ただ、自分や家族が海外へ行くことがあるなら、万が一のためにも、こういう会社の存在は知っておいたほうが良い。

開高健ノンフィクション賞を受賞したのも頷ける素晴らしい内容で、何度となく涙ぐんだ。多くの人に、ぜひとも読んでみて欲しい一冊である。

余談ではあるが、著者はツイッターもされている(@ryokosasa)。ご自身のツイートは多くないが、興味深いツイートをたくさんRTされている。また、@をつけた本の感想ツイートには、迅速かつ気さくに返信をいただいた。

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