2019年5月20日

精神神経疾患を題材に、科学を用いて哲学に踏み込む 『私はすでに死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』


タイトルが『北斗の拳』のパロディみたいだが、内容はいたってマジメ。

様々な精神神経疾患を題材にしながら、脳MRIなど科学の力を用いて「私とは何か」という哲学的な問いへの答えを探っていく。中でも、自分の身体の一部が自分のものとは感じられない身体完全同一性障害(BIID)の章は、これまであまり知らなかっただけに興味深かった。このテーマの中心となる男性は、幼いころから片足を自分のものに感じられず、自分で切断することさえ考えたり試そうとしたりする。最終的に手術で切断したことで幸せになったという結末は印象的だった。

また「ドッペルゲンガー」についても面白かった。ドッペルゲンガーとは、自分とそっくりな人物を見る「自己像幻視」だ。これのもっとも単純なものが「見えない誰かの気配をそばに感じる存在感覚」で、いわば「幻肢の全身版」というのだ。なるほど。

平凡な精神科医である自分にとっては難解な部分も多かったが、全体として興味深く読めた。ただし、脳解剖や精神神経疾患にまったく知識のない人が読むには少々難しいかもしれない。

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